ホクレアと姉妹船ヒキアナリアは今年6月に太平洋へと出航します。日本を含む36の国と島々、100近い先住民族の地域、300余に寄港し、ホクレア初航海から50周年を迎える2026年にハワイへ帰航する予定です。私たちが暮らすハワイという唯一無二の島から始まったこの活動と最新情報をご紹介します。
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ホクレアは、コンパスなどの計器を一切使わず、自然の様子から針路を読み取って航海をする双胴船です。主な動力は風で、エンジンはありません。伝承により伝わっていたこの航海術は一度は失われていました。それを復活させるためにポリネシア航海協会(PVS) が復元したのがホクレア(ハワイ語で幸せの星)です。釘を使わず全ての部位をロープで縛って組み立てられています。1976年、ホクレアはハワイとタヒチ間の約4000Kmの航海に成功し、伝統航海術をよみがえらせました。これにより、1000年以上前に偶然ポリネシアから漂流したとされていたハワイアンの祖先は、ハワイを目指して航海してきたことが実証されたのです。
その後約50年間、ホクレアは、文化伝承、自然・地球への敬意、いたわる心を育み、自然と調和のとれた持続可能な世界を目指して世界中を航海してきました。
海図もコンパスも、当然GPSもない時代に、人々が島から島へと広大な海を渡っていた航海術は、「スターナビゲーション」と呼ばれています。
星や月、太陽の位置や動き、風、雲、海のうねり、鳥や魚などの自然からヒントを得て、現在地を把握し、ゴールを見出していきます。星が見えない夜は海のうねりを見るなど、1日に数千というサインを五感をフルに使って観察します。時には研ぎ澄まされた第六感にも頼りながら針路を決めていきます。たとえ悪天候による荒れた海で体力を消耗する中でも、自然からのわずかなサインを見逃すわけにはいきません。手をかざして針路の角度を決めるとき、小指の幅の半分ほどの0.5度ずれることで、目的地である島を見つけることなく通り過ぎてしまうのです。
航海に成功するために必要な作業の95%は出航前にあると言います。クルーたちは、伝統航海術の計算方法や操縦を入念に学び、万が一海に落ちた仲間を助けるための救助活動や厳しい体力トレーニングを重ねます。
ホクレアがこれまで航海した距離は延べ約30万キロ。地球の約7周分です。ハワイから太平洋の島々、日本、そして2014年から2017年にかけては「マラマホヌア(地球をいたわる)世界航海」として、18カ国150以上の港を訪れました。
オーストラリアのグレートバリアリーフでは世界最古で最大のサンゴ礁からエコシステムを学び、人類の起源とされるアフリカに寄港したときには先住民の人たちがホクレアのクルーたちを「きょうだい」と呼び、「お帰りなさい」と迎え入れました。ニューヨークではバン・ギムン前国連事務総長と再会を果たし、世界一周航海で世界をつなぐ約束を実行している姿を見せました。さらに、地球温暖化によって沈むと言われている島を訪ね、その人々の想いを乗せて航海を続けました。そして、祖先とテクノロジーをつなぐ子どもたち、地球のために活動する人たちと出会い、先住民の知恵と西洋の知識を学び、各地域の人たちをつないで海を渡ったのです。
こうして、ホクレアは「海は世界を分断するのではなく人々をつないでいる」ということを示し、知恵を分かち合い、地球をいたわる航海を成功させました。
航海師でポリネシア航海協会会長のナイノア・トンプソン氏は「最も危険なのは航海をしないこと。自分の信念に立ち向かう勇気を持たないこと」と言います。
2023年、古代から現代までの英知を乗せたホクレアは、それらを次世代へつなぐための新たな航海へと旅立ちます。
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アラスカから出航し、メキシコ、ポリネシア、そして2026年に終着点の日本へ!
初航海から50周年に向け、伝統航海カヌー「ホクレア」と姉妹カヌー「ヒキアナリア」は、2023年から2027年までの47カ月をかけて太平洋を一巡する環太平洋航海「モアナヌイアケア航海」を行います。
ポリネシア航海協会(PVS)は3月21日(火)に、ホクレアが停泊するサンドアイランドの港で記者会見を開き、5年間にわたる準備を終えて、今年6月10日(土)に出航することを発表しました。出発地は、その先住民族と31年間にわたる関係を築いてきたアラスカです。4年間をかけて推定4万3000海里を、伝統航海カヌー「ホクレア」と姉妹カヌー「ヒキアナリア」に乗船するクルー約400名で、36の国と島々、100近くの先住民族の地域、300以上に寄港する予定です。
モアナヌイアケア航海の目的は、健全な未来に向けて地球というカヌーの舵を握る次世代のリーダーを育てること。そして世界中のコミュニティーから地球をより良い方向へ先導する1000万人の地球ナビゲーターを生み出して、ムーブメントを起こすことです。
航海そのものが世界的な教育普及活動になります。ナイノア・トンプソン氏は記者会見で、次世代への教育がどれほど大切かを繰り返しました。ナイノア氏は、「カヌーは愛です。ベストフレンドであり、勇気をくれる存在です」と言います。自然を見て、その声、叫びを聞いて、感じて、地球に今何が起きているのかを理解する必要があると訴え、これは、海のことだけに限らず、気付きを得てより良い未来を選択するきっかけになるための活動だと話しました。
モアナヌイアケア航海は、最も難しい航海が予想されています。物理的にも時間と距離が長く、海流や潮流の他、アラスカでは低体温症も危惧されます。しかし、最も難しいのは「ミッションを達成すること」とナイノア氏は言い、「私たちは地球との関係を取り戻そうとしています。この世界が子どもたちにとって健全であるかどうかが重要なのです」と付け加えました。
ナイノア氏は、PVSによるホクレアの活動をサポートする企業や団体に対し、「あなたたちはスポンサーでなく、共に航海をするクルーです」と伝えました。ハワイの恩恵を受けている私たちも、ホクレアの活動を理解することが次世代への小さな支援につながるはずです。
(リポート/ 編集長 大澤陽子)
<ポリネシア航海協会~Polynesian Voyaging Society~>
1973年にハワイ州で設立。ポリネシアの伝統航海技術や科学、探検の精神の永続を目指し、 学生とコミュニティーに、自分と他者、自然や文化の環境を尊重し大切にする気持ちを育む体験型教育活動を行う。
アラスカを出航し、アメリカ大陸沿岸へと南下して、タヒチ、ニュージーランド、オーストラリア、太平洋諸島、さらに北上して日本へ
2023年4月16日(日) アラスカを目指して出航
2023年6月10日(土) アラスカに到着し、約1週間、地域のコミュニティーと教育活動に従事
2023年6月15日(木) 儀式を行い出航
2023年6月~9月 アラスカ、ブリティッシュコロンビア、シアトル
(8月に姉妹カヌー「ヒキアナリア」とワシントン州シアトルで合流)
2023年9月~11月 アメリカ西海岸地区
2024年1月~2月 メキシコ、中米、南米
2024年3月~12月 世界最大エリアとなるポリネシアを航海
2024年12月~2025年5月 アオテアロア
2025年5月~2026年3月 メラネシア、ミクロネシア、パラオ
2026年3月~9月 西太平洋、日本(終着)
2026年9月~12月 日本からロサンゼルスに輸送後、ハワイに帰航
2027年春 タヒチ
※航海スケジュールは変更になる可能性があります。
随時更新! PVS とモアナヌイアケア航海の最新情報 www.hokulea.com
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※このページは「ライトハウスハワイ 2023年5月号」掲載の情報に基づいて作成しています。最新の情報と異なる場合があります。