遥か昔、ポリネシアの人々はダブルカヌーに家畜や食糧を載せ、天体の位置や風向き、潮流、渡り鳥の動きなどを見ながら、優れた直感力で方位を見定め、遥々ハワイへ渡ってきました。人類未踏の地に上陸し、豊かな楽園を築き上げた彼らは、大自然の中に神なる存在を見い出し、敬い、厳しい環境を生き抜いた、叡智に溢れる人々でした。今回は、そんな古の時代が感じられるパワースポット、伝説の浜辺を訪ねましょう。
雲一つなく、爽やかな青空が広がるワイキキの朝。寄せては返す、心地よい波の音に誘われて、海辺のカフェでのんびりブランチ。焼きたてのワッフルを頬ばりながら、珊瑚礁の彼方に広がる紺碧の海を眺めていたら、ふと、ある人から訊いた話を思い出しました。ハレイワの西方の浜に「座ると幸せになれる」という、椅子の形をした伝説の岩があると…。また、その近くに「ベルストーン」と呼ばれる巨岩があり、かつてはそこでさまざまな神事が催され、時には漁師たちに魚群の到来を告げるための鐘として使われていたということも。
秋の到来とともに白波が立ち始めたノースの海と伝説の岩、陽が落ちるにつれて幻想的な色合いを見せる、あの美しい夕空が見たくなり、一路ノースショアへ向かうことにしました。ワイキキから西へ進み、パールシティからH2フリーウェイを北上。地平線いっぱいに広がるパイナップル畑の真只中を走り、その先に見えて来る海に向かって、坂道を下って行くと、やがて左手にノスタルジックな田園風景とハレイワの町並みが見えてきました。町から海辺へ出る橋の手前で左折。アリイビーチを過ぎて、まもなく右手に見えてくるのがカイアカ湾のビーチパークです。ゲートを通り奥へ進むと、一面緑の芝地に、巨大キノコのような岩。その向こうに午後の日差しを浴びた海原が白銀に輝いています。ハワイ語で「ポハクラナイ」…テラスの岩と名づけられたこの奇岩は、高さ約4メートル、全周約28メートル。バランスよく重なる二つの巨大な石灰岩は、ハワイ先住民の故郷であるタヒチから流れ着いた、霊力のある岩という言い伝えも。テラスのような円盤状の岩の上に神事の供物が捧げられ、漁を司る神官がここに上って魚群の動きを確認したり、魚影を発見した時には、この岩を木の棒で叩き、漁師たちに知らせたとも言われています。
公園の西側は静かな入江になっていて、対岸の山手にはかつて栄えたワイアルア砂糖精製工場(現在はノースショア・ソープファクトリー)が郷愁あふれる姿を見せています。鳥のさえずりに誘われ、心地よい木陰ができている水辺へやって来ると、そこには存在感のある岩がまばらに並んでいました。このエリアはカプカプアケアと呼ばれ、古代ハワイの神を祀るヘイアウがあった場所。その中でひときわ存在感がある岩に目が留まり、近寄ってみると、それはまさに腰掛けるのによさそうな椅子の形をしています。
この地を護る神々に祈りを捧げ、岩に座ってもよいか、お伺いを立ててから、そっと腰を下ろしてみると、岩からぽかぽかと温かなエネルギーを感じます。優しく包まれるような感覚に、目を閉じ、しばし寛ぎの瞑想タイム。深呼吸して息をゆっくりと吐くたびに、体の奥深くまで温かな波動で充たされていくのを感じます。やがて、眩い光を瞼に感じて目を開けると、いつのまにか陽が傾き、夕陽に赤く染まったポハクラナイに金色の後光が射していました。
伝説の岩でパワーチャージした後は、サンセットの名所アリイビーチへ。「王の浜」と名づけられたこのビーチはノース一帯を見晴らすロケーションで、ウミガメのサンクチュアリとしても、注目のスポット。波打ち際で幸せそうに眠るウミガメたちを眺めながら、暮れゆく浜辺で静かに時を過ごします。ふと、東へ目をやると、そこには紅紫のグラデーションに染まる美しい夕空が広がっていました。
ワイキキからH1、H2フリーウェイ経由で島を北上。ハレイワのレインボーブリッジ手前をハレイワロードへ左折。アリイビーチを過ぎて、ハレイワ小学校の手前に「カイアカベイ・ビーチパーク」の看板が見えたら右折。ゲートの奥にビーチパークがある。
カイアカベイ・ビーチパークからハレイワ方面へ戻り、左手にすぐに見えてくるのが「ハレイワ・アリイ・ビーチパーク」。ウミガメがよく見られるのは、駐車場の西側に広がる砂浜。
ホノルル在住18年のヒプノセラピスト&フリーライター。東京女子大学心理学科卒業後、富士通を経てハワイに移住。現地情報誌の編集者、ライター&翻訳家として活動するかたわら、2003年より、ヒ―リングサロン『Moe Hawaii』を主宰。「心のエステ」をテーマに、退行催眠や前世療法などの個人セッションのほか、ヒプノセラピー(催眠療法)をベースにしたワークショップ型のヒーリングツアー「6つの聖地と秘境をめぐる、楽園癒しの旅」を開催している。www.moehawaii.com
(‘Eheu Autumn 2013号掲載)