海と山が近いハワイはトレッキングコースの宝庫。美しいビーチを眺めながら歩ける絶景コースはもちろん、想像以上に深い緑の森が広がることにも驚かされる。それらの多くは、古代ハワイアンにとって聖なる地であったり、興味深いエピソードが秘められ、好奇心をかき立てられる場所だ。そのオアフ島で、難易度別におすすめのコースを紹介しよう。
(Text: Sachiko Nagata / Photos: Taku Miyazawa)
トレッキングが初めての人でも、ハイキング感覚で気軽に歩けるのがここ。ショートトレイルながらうっそうとした森は時に神秘的で、水辺に赤いトーチのように咲くジンジャーの花を数えながら歩くのが楽しい。
トレイルに入って最初に現れる沢を渡ったら、竹林のT字路を左へ。緩い傾斜をしばらく登ると、背の高いクックパインに囲まれる。幹にリングのような模様があるこの木は、ナンヨウスギの一種。キャプテン・クックによってニューカレドニアで発見されたことから、命名されたという。天に向かってまっすぐ伸びる姿が清々しく、見上げるこちらもすうっと背筋が伸びてくるようだ。ちなみに「ジャッド・メモリアル」のトレイル名は、クックパインをこのエリアに植林した森林監督官チャールズ・ジャッドにちなんだもの。彼はカラカウア王とともに日本を訪れたことがあるという。こういうエピソードを知ると、歩く楽しさも倍増する。
クックパインがまばらになり、グアバやハウの木が増えて熱帯雨林のような景色に変わると、下の方から水音とともに歓声が聞こえてきた。岩に囲まれた天然のプールだ。周囲をジンジャーに囲まれていることから、「ジャッカス・ジンジャープール」と呼ばれ、地元の子どもたちの遊び場になっている。
森の奥深く分け入ってきた気がするが、ループ状の周回トレイルであるため、ここから5分も歩けば最初に渡った沢に戻る。どおりで水遊びにやってくる子どもたちが、水着にビーチサンダルという軽装のわけだ。
左回りのコースを選ぶと、前半でヌウアヌ・トレイルへの分岐点がある。こちらは距離6キロ、標高差300メートル近くある少々ハードなコース。2つのトレイルを合わせて歩いてみるのもいい。
ヌウアヌ・パリ周辺は、カメハメハ大王がハワイ統一を果たした古戦場であり、周辺には今でも王家ゆかりの史跡が残る。ジャッド・メモリアル・トレイルから少し離れた場所にひっそりとあるのが、カメハメハ3世が夏を過ごした宮殿跡だ。
注意していなければ見落としてしまいそうなほど小さな入り口から林の中を100メートルほど進む。すると視界が開け、外壁らしき石積みばかりが残る廃墟のような建物が佇む場所がある。しかし、周囲の下草はきれいに刈り取られ、真新しいレイが捧げられていることからも、訪れる人が後を絶たないことがわかる。不思議な静けさとともに、厳かな気分になる場所だ。
(’Eheu Spring 2017号掲載)
(Text: Sachiko Nagata / Photos: Taku Miyazawa)
オアフ島の西海岸は、晴天率が高いことで知られるエリア。北上するにつれ街のローカル色とともに、海の青さが増してくるのがわかる。ゴツゴツした岩肌がハイウェイに迫りくる光景も圧巻だ。その1カ所に、ポツンと見えてくるピンク色に塗られたピルボックスを目指して歩くのが「プウオフル」のトレイルだ。
「ピルボックス」とは、第二次世界大戦中に見張り台として使われていたコンクリートの四角い建物のこと。島のあちこちに今でも残り、見張り台だけあって眺めのいい場所が多い。
プウオフルが注目されるようになったのは数年前、外壁が塗り替えられてからのこと。乳ガンの早期発見と治療を促すピンクリボン運動啓発のためと言われ、「ピンク・ピルボックス」のニックネームとともにまたたく間に人気が広まった。トレッキングにあまり興味がなかった女性たちも、その姿をひと目見ようと集まるようになったのだ。
プウオフルの本当の魅力は、刻々と姿を変えて飛び込んでくる海岸線の光景にある。平坦な道と、大小の石が転がる斜面が交互に現れるトレイル上で海を振り返ると、高度を上げるにつれ青色のグラデーションがはっきりしてくるのがわかる。中盤まで差し掛かったあたりで、白い木の根が岩肌を覆うスポットにたどり着いた。乾燥した大地で根を張る植物のエネルギーを目の当たりにした思いだ。
さらに30分ほど歩くと、いくつかのピルボックスが点在する頂上に到着。そのなかのひとつが、ひときわ明るい色合いを放つピンクのピルボックスだ。壁面と屋根に描かれた大きなリボンは、女性へ祈りを捧げるためのシンボルでもある。
頂上までは片道約1時間。北方向にはカエナ岬へ続く海岸線と、背後に雄大なワイアナエ山脈が迫る。南には新たなリゾートエリアとして開発が進むコオリナが、足元に目を移せば吸いこまれそうなほどに深い青色の海。冬であれば沖にザトウクジラの姿を探すのも楽しみだ。
(’Eheu Spring 2017号掲載)
(Text: Sachiko Nagata / Photos: Taku Miyazawa)
プウオフルからさらに北上すると、ハイウェイはヨコハマ・ベイで行き止まりになる。ここから延びる片道約4キロメートルのトレイルの終点が、オアフ島最西端に位置するカエナ岬だ。「カエナ」とはハワイ島キラウエア火山に棲むとされる火の女神ペレの家族の一人の名前であり、この地へやってきて住み着いたとの言い伝えが残る。古代ハワイアンからは、死にゆく人の魂が旅立つ神秘な場所として信じられていたという。
カエナ岬へは北側と南側からアプローチする2つのトレイルがあり、今回歩いたのは風下に当たる南海岸コース。距離はあるもののアップダウンはほとんどなく、上級といってもさほど難易度は高くない。ビーチ・ハイキング気分で出かけるのもいいだろう。干潮時にはいくつものタイドプール(潮だまり)が出現し、水着姿にクーラーボックスを抱え、磯遊びができる場所を探しながら歩くファミリーの姿も多い。
トレイルの前半はまっ黒な岩肌と藍色に近い海と空のコントラストがどこまでも続き、足元の海をのぞき込むと澄みわたった海水が打ち寄せる。岩場には、釣り糸を垂れながら日光浴を楽しむ人の姿も。時折、勢いよく潮を噴き上げるブローホール、波の浸食により海中にぽっかりと口を開けた洞窟や、恐竜の姿にも見えるアーチ岩が次々と目の前に現れ、自然が作りあげたダイナミックな造形につい立ち止まって見とれてしまう。
歩き始めてから約50分、海に突き出た岬と、先端に立つ船舶標識の姿が見えてきた。一部、道路が崩落した場所を避けて、右手の岩場を注意深く登る。すると突然、色彩が変わった。漆黒の海岸線、海と空の青の2色だった世界に、岬の先端を覆うわずかな植物の緑色と砂浜の白色が加わった。
岩肌に厳重に張り巡らされたフェンスは、猫やマングースなどの天敵からコアホウドリを守るためのもの。2重に設けられたゲートをくぐれば自然保護区に入る。緑の茂みでかれんに咲く半円状の花はビーチナウパカ。ハワイの伝説では、女神ペレによって2つの花に姿を変えられ、海と山に引き裂かれた恋人たちとされる花だ。海と山、2つの花が合わさると恋人たちが再会の喜びに涙を流し、雨が降ると言われている。
コアホウドリの繁殖期は1~5月。冬の間はオスとメスが繰り広げる求愛ダンスを、5~6月の初旬までは精悍な顔立ちの親鳥のかたわらに、黒っぽい産毛に包まれたヒナの姿を確認することができる。
「ハワイを歩いて楽しむ本~海・山・街歩き&ラン」
(実業之日本社、1,600円/税別)
今回ご協力いただいた永田さち子さんと宮澤拓さんの著書。オアフ島の人気トレッキングコースのほか、ビーチ散歩や歴史散策、ランニングを楽しめる全22コースを、立ち寄りスポットとともに紹介。日本の書店にて発売中
(’Eheu Spring 2017号掲載)
(Text/Photos: Yoshiko Karson)
ハワイカイの一歩手前にある小さな住宅地、クリオウオウの奥に連なる山中にあるトレイル。往復で約4時間、傾斜のきつい道をたっぷりと歩くトレイルは、ハイキングというよりも山登りの域に達する。運動不足の人や小さい子どもには決してお薦めできず、ある程度トレーニングを積んでからチャレンジしたい。
トレイル口は住宅地の行き止まりにあり、駐車場は特に設けられていないので道端に駐車。駐車スペース確保と、日中の暑さを考え、朝7~8時頃にはハイキングをスタートするのが理想的。かなり汗をかくので、熱中症予防のために、水は最低でも750ml程度のボトル1本は持参。必要ならば車にもう1本置いていこう。なお、付近やトレイル上にトイレはないので、来る前に用を足しておく必要がある。途中でエネルギー切れになる場合も考え、トレイルミックスなど軽いスナックを用意するといい。トレイル上には何カ所か座って休める場所もある。
トレイルは緩やかに始まるので、最初はペースよく歩ける。途中ガラリとトレイルの様子が変わり、道が落ち葉で覆われている常緑樹の林を歩くが、道が分かりにくいので、木に巻かれたピンクのリボンを目印にして進もう。頂上まで約1時間半~2時間かかり、終わりに近づくと、かなり傾斜がきつくなってくる。
頂上に近づくと山の尾根に出る。ここからはハワイカイからワイマナロまで、青い海が眼下に広がる絶景を見渡せるが、頂上からの景観はさらに素晴らしい。尾根に出て頂上までは急な階段を登らなければならず、この時点でバテる人も多いが、ここまで来たらあともうひと踏ん張り!
頂上には柵などはなく土が滑りやすいので、下を覗き込んだりしないよう注意。また、帰りは急な道を下る際に足が滑りやすいので、無理せずにゆっくり進んで行こう。
ハワイでハイキングをする際は、午後になると気温が上がったり、駐車場のスペースがなくなるので、早朝8時頃までには出発するのが理想的だ。
どこのトレイルに行く時でも忘れてはならないのが、
①底のしっかりした滑りにくいシューズ
②カメラと携帯電話
③水とスナック
④日焼け止めと虫除け
である。半日以下で終わる場合、早朝出発すれば食事持参の必要はないが、半日以上かかったりキャンプする場合は、必要な装備を十分リサーチしてから行こう。
事前のプランニングが大事必要以上の貴重品は持たずに行く
トレイルの駐車場は車上荒らしに狙われやすいので、貴重品は最初から持たずに、必要分の現金を持って来るだけにするなどの注意も必要。また、トレイルの状態も考慮し、当日だけでなく、前日までの天候にも注意。ハワイ州土地・天然資源局の森林・野生動物課に勤務し、同局が管理するトレイルを網羅するサイト「ナ・アラ・ヘレ(Na AlaHele)」を管理するアーロン・ロウさんは、「日本人のハイカーは静かで、他人に対する心配りもあり、自然に対する畏敬の念を持つ人も多いですね。ハワイの文化や自然を学びながら、楽しく安全にハイキングを満喫してください」と話す。
ハワイの生態系を守る努力を!シューズは洗ってから使用
ハワイの森林には、その場所にしか存在しない原生植物や生物も多い。生態系を保護するため、トレッキング・シューズの底に泥や枯葉が付着している場合、外来植物が森林に入り込むのを防ぐために底を洗ってからの使用をお勧めする。また、トレイル以外の場所は絶対に歩かないこと。
ナ・アラ・ヘレのサイト:http://hawaiitrails.ehawaii.gov
(’Eheu Winter 2015号掲載)
※このページは「’Eheu Spring 2017」および「’Eheu Winter 2015」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。