ハワイの花や葉、ウミガメなどの手彫りのデザインが太陽の光を受けて輝くハワイアンジュエリー。それは、ハワイが紡いできた歴史であり、絆の象徴とされている。自身の名前を冠した「フィリップ・リカード」で30年余り職人としてハワイアンジュエリーを作り続けてきたフィリップ・リカードさんは、歴史家という一面があるからこそ誰よりも強く熱いクラフトマンシップを持っている。
(Photos: Akira Kumagai)
ハワイ王朝最後の女王、リリウオカラニがイギリスのビクトリア朝デザインを模倣して作ったとされるハワイアンジュエリー。この歴史を紐解いたのが、ハワイ随一のハワイアンジュエリー専門店を創業したジュエリー職人フィリップ・リカードさんだ。
彼はジュエリーに魅せられ、17歳の時にイタリアへ渡り、美しいジュエリーの数々と、その製造の様子を見て回った。
オレゴン州出身のフィリップ・リカードさんは、呼ばれるようにハワイへ来たという。そして、ハワイの伝統であるハワイアンジュエリーは美しくクオリティーの高いものでなくてはならないという使命を感じ、1986年に「フィリップ・リカード」を創業。ハワイアンジュエリーの奥深い歴史に興味を持ち、調査を開始。6年の歳月をかけて、その謎を解き、『ハワイアン・エアルーム・ジュエリー(永遠の思い出)』を出版した。
1887年、ハワイのリリウオカラニ女王が謁見した英国のビクトリア女王が、若くして失った夫をしのび、身につけていたのが黒く染めた文字を入れたブレスレットだった。リリウオカラニ女王は、その想いに感銘を受け、兄の崩御により継承した王位を重く受け止め、黒い刻印のブレスレットを作った…。
フィリップ・リカードさんは、自身で解き明かした歴史を重んじながら、ハワイアンジュエリーを製作している。
ハワイ・オアフ島のホノルルにある工房で30年以上の間、フィリップ・リカードさんは、ハワイアンジュエリーのデザインから製作までの全工程の一つ一つを自ら行ってきた。
彼の作業は、まず金を混ぜ合わせるところから始まる。ピンクゴールドやホワイトゴールドなどの色は、金の純度の割合で決まる。慎重に配合を行い、高温のバーナーで溶かして融合させる。固体となった地金をカットして形をデザインし、ハンドトーチと呼ばれる小さな炎によって金の上にエナメルの輝きを加える。そこにモチーフを彫り込む。
オールド・イングリッシュ、マイレの葉、プルメリア、ハイビスカス…。最後に一つずつ丁寧に磨き上げていく。「美しく作り上げることが何より大切」。なぜなら、「ハワイアンジュエリーは一生涯身につけ、子どもへ、そして孫へと伝えていくもの。長く深く受け継がれていくエアルームジュエリー(家宝)なのです」。
人生の記念日にオーダーする人が多いハワイアンジュエリー。結婚や出産、ハワイでのかけがえのない思い出を残すために作る人もいる。その時の想いを美しく表現し、いつまでもその気持ちとつながることができるようにと、フィリップ・リカードさんは丁寧に深く彫る。
ハワイアンジュエリーの製作は自分に与えられたギフト。だから「ベストのものしか作りません」と静かに語る。どれほど時間がかかっても最高のひとつを作り上げる。フィリップ・リカードさんが作るブレスレットは厚みがありずっしり重い。これがクオリティーであり、想いの重さだ。
長年彼の元で働くスタッフが、このハワイアンジュエリーは彼にしかできない挑戦であり、その結果だと教えてくれた。
「ホオマナオ・マウ(永遠の思い出)」と刻み、リリウオカラニ女王が一生涯身につけたブレスレット。130年間消息がわからなかったこのブレスレットを、フィリップ・リカードさんが見つけ出したことも運命なのかもしれない。だからこそ、彼はハワイの歴史を深く刻み込むために、ハワイアンジュエリーの製作に全身全霊を捧げている。
ハワイの伝統であり、絆であるハワイアンジュエリーが、身につけた人のもとで一生輝き続けるようにと、フィリップ・リカードさんは職人らしさがにじみ出た手を巧みに動かしながら、今日も工房で世界唯一の宝を作っている。
地金作り・彫金・デザイン彫刻・刻印
いくつもの工程を経て、フィリップリカードのハワイアンジュエリーは唯一無二の逸品となる
1.
金やプラチナのジュエリーの地金を作る。金の融解、圧延、鋳造の後、手または機械で形を作っていく。その後、磨きをかけてツヤを出す
2.
デザインとのバランスを見ながら、文字のサイズを確定させる。文字入れは、オーダーによって手または機械で刻み込んでいく
3.
エナメルを製作。耐久性のあるガラスエナメルを、ハンドトーチを使い、液化するまで熱し、その後ゆっくりと冷却する
4.
デザインを彫刻する。イタリアから取り寄せた器具を使い、数千年の歴史を持つ技法で手彫りによって、深くモチーフを彫り込んでいく
5.
モチーフを入れたジュエリーを一つずつ丁寧にゆっくり手作業で磨く。この作業により、ツヤが増し、光り輝くジュエリーになる
6.
最後にジュエリーの内側や後部に刻印を入れる。メッセージや名前、日付などを手または機械で刻む。これで世界で一つのジュエリーが完成
◎ フィリップ・リカード / Philip Rickard
2330 Kalakaua Ave., #105, Honolulu
インターナショナル・マーケット・プレイス/バニヤンコート1階
☎ 808-924-7972
▶ Webサイト:www.philiprickardjapan.com
(’Eheu Summer 2018号掲載)
※このページは「‘Eheu Summer 2018」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。