ハリー

戦後を生き抜いたレジェンドと呼ばれる日本人画家、ハリー。

ハリー・ツチダナ作品
1950年代後半に描かれた色彩豊かな水彩画。現在の作風になる前の代表作のひとつ

戦後を生き抜いたレジェンド~日本人画家、ハリー・ツチダナ

(Text: Maiko Izon)

ハリー・ツチダナ
HARRY TSUCHIDANA / ハリー・ツチダナ
1932年ハワイ・オアフ島ワイパフ生まれ。ワシントンDCにあるアカデミー・オブ・アーツやコーコラン美術学校、またNYのブルックリン・スクール・オブ・アーツなどさまざまな美術学校を経て抽象絵画を究める。コーコラン美術館やニューヨーク近代美術館での勤務後、現在の作風にたどり着き、以降、ハワイを代表する抽象画家として現在も精力的に作品作りに取り組むレジェンド・アーティスト

1941年12月7日、ワイパフの丘の上に立つ9歳の少年は、頭上を旋回する日本軍用機の中に首にスカーフを巻いた操縦士が操縦桿を握りながら、少年を見て手を振っているのを眺めていた。その直後に真珠湾エリアで炎が上がり、手を振り返した飛行機が日本からの戦闘攻撃だったことを知る。戦後の社会情勢が激しい中、少年はひたすら絵を描き続けアーティストとしての人生を駆け抜けた。
 
1932年ハワイ・オアフ島ワイパフ生まれ、85歳の現役アーティストが描き、追求し続ける現代アートとは?レジェンド・アーティスト、ハリー・ツチダナが歩む抽象画家の人生を紐解いてみる。
 
シンプルに2、3色のアクリル絵の具を使い、縦と横の線だけで表現された彼の象徴的な作品は、いわゆる一般人には理解が難しい「抽象絵画」と呼ばれる作風だが、色彩や丁寧に描かれた直線がどこか面白く、本人と話を進めるうち、なんとなく彼が表現しようとする入口には立てたような気がした。
 
幼い頃から病気がちだったハリーは、絵を描くことが自宅で過ごす最大の楽しみだったという。
 
「1948年から51年までの3年間、ホノルル・アカデミー・オブ・アーツで美術を習い、その当時、すでに東海岸へアートを勉強に行きたいと切望していた僕に、館長がNYへ行かないようにと手紙を書いたのをよく覚えているよ。多くのアーティストはアートの中心地であるNYへ渡り帰ってこないからね。僕もNYで多くのハワイ出身のアーティストに出会い、生涯を向こうで暮らした仲間を知っているよ」。大昔の記憶をたどるように、ゆっくりゆっくりと当時の様子を話してくれる。

今の作風、抽象絵画への道を歩むきっかけとなったのは、1955年にハワイを離れて渡ったワシントンDCでの美術学校時代。近所にあったアーサー・ダヴのギャラリーで彼との作品に出会ってからだという。

「彼の作風は、抽象絵画に興味があった僕にとって衝撃的だった。目に見えない物を絵に取り込んで表現する彼の物の見方にすごく感銘を受けたのを覚えているよ。具象画は目に見えるそのままを描いて完成された作品で面白みがない。抽象絵画というのは、物を自由に動かしていいんだ。人の生活というのは、一点から物を見るだけではないだろう?常に生活の中であっちを向いたりこっちを向いたりしながら暮らしている。抽象絵画というのは、そういう自由な物の見方をそのままアートとして表現できるところが魅力的なんだ。目の前にあるそのままを描くのではなく、上から見たり、横から見たり、下から見たり、いろんな角度や距離から見ることで大きさや見え方が違ってくるのをそのまま描く」。

現在の作風にたどり着いたのは1979年。その後15年間、個展を開くことも誰かが作品を買ってくれることもなかったが、「今、描かなければ後悔すると思って描き続けてきた」と語り、そして、今でも日々この作風を追求し続けた作品を描き続けているという。彼のアトリエの壁中に掛けられた作品は、彼が言うように、見方によっては色と色との関係性や、線と線との動き、間合いなどいろいろな解釈で捉えることができる。
 
「朝起きて、コーヒーを飲みながら新聞を読んで、日々、心の赴くままに鉛筆で線を描くんだよ。何をテーマにするでもなく、完全にフリーハンドで描く線で毎日の生活に”遊び”や”クリエイティビティー”を取り込んでいるんだよ」。

型にはまらない自由な発想とは時に人を苦しめる。人はなかなか「自由に何も考えずに何かをする」というのが難しい生き物である。
 
「各世代に応じていろんなアートの波があり、どれが良くてどれが悪いとか正しいとかはない。現代の”アート”のスタイルというのは、デジタル化もあり、どうしても僕らの世代の”アート”よりも”イラストレーション”というイメージが強い感じだね。作っている側も指導している側も自分たちが何を取り組んでいるのかわかりやすい。本当は、毎日の生活の中に抽象的な「表現」や「物の見方」って当たり前のようにあるだろう?例えば、朝起きて朝日が顔に当たったときのフィーリングとか。皆それぞれにいろいろな表現方法があるからね。ひたすら毎日心が感じるままに色を重ねたり、線を移動させたりしながら、人々の生活の舞台裏を描くようなクリエイティブな時間が僕にとってかけがえのない時間なんだ」。

自由な発想を重視した抽象画家らしく、どこまでも自由な感じですべてを受け入れて賞賛するレジェンド・アーティスト、ハリー・ツチダナ。彼のユーモア溢れる人柄や探究心がそのまま線や形、色となって次々と作品が生み出されているようである。
 
(’Eheu Spring 2017号掲載)

※このページは「’Eheu Spring 2017」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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