Q. 国際結婚の相談所を通して知り合ったアメリカ人男性と、婚約しました。彼は一度離婚をしており、離婚に多くの時間と費用がかかったそうです。もうそのような経験はしたくないので、彼は私が婚前契約書にサインをしない場合は結婚できないと言い、婚前契約書の内容より多くお金をもらえるようにするので、心配無いと言います。私は書類にサインをしてよいのでしょうか?
A. 婚前契約書は、結婚をする前に、離婚、または死別となった場合、それぞれの財産、収入をどのように分配するのかを、あらかじめ決めておくための書類です。
一般的に婚前契約をした方がよいといわれるケースは、(1)結婚相手より自分が極端に裕福な場合、(2)結婚相手より自分の収入が極端に多い場合、(3)再婚で以前の配偶者との間に子どもがいる場合、(4)結婚相手との年齢差が極端に大きい場合、(5)相手に多額の負債がある場合、(6)自分のビジネスを所有している場合、(7)親や親族からの大きな資産がある場合、などです。ですから、アメリカ人同士の婚前契約書のケースはこれらの特別な理由がある場合が多いです。しかし、時々日本人の女性と結婚するアメリカ人が大きな財産や収入、もしくは特別な理由もないのに、結婚のために婚前契約書にサインを求めることがあります。
アメリカ人同士では双方が書類を確認して内容がある程度わかっているのが普通ですが、英語が母国語でない日本人の場合、アメリカ人の婚約者が口頭で日本人に伝えていた内容と契約書に書かれている内容がまったく異なることも珍しくありません。
ですからご相談者の場合も、婚前契約書の内容をきちんと理解することが重要です。自分は英語で書かれた法律の書類は理解できないと相手方に説明して、弁護士に相談するべきです。内容を全て理解できていないものを、相手方の口頭の説明のもとにサインをすることは絶対に避けるべきです。多くの婚前契約書は、離婚、もしくは死別の場合何ももらえないという内容になっています。私が婚前契約書を確認して、何ももらえないという内容であることを説明すると「婚約者に言われた内容と異なる」と言って驚かれる方がこれまでに何人もいました。その場合、法律のもとで得られる権利を踏まえ、お互いが納得できる内容に変更してもらうことを考える必要があります。
口頭での約束に法的効力はない。契約書の記載内容が全て
また、ご相談者のように「婚前契約書の内容よりもお金をもらえるようにするので心配しないように」と言われるケースも多いです。しかし、法的に効力があるのは婚前契約書に記載されていることのみです。
ハワイでは婚前契約の効力に関する法律があり、婚前契約書を無効にするためには、無効だと主張する側が(1)婚前契約書に自主的にサインをしなかった、もしくは(2)婚前契約書の内容がサインをした時点で不当な内容で、サインをする前に相手方の経済状況の開示を受けなかった、開示の権利を放棄しなかった、そして相手方の財産や経済状況に関して十分な知識がなかったことを証明する必要があります。
(1)の「自主的にサインをしなかった」は、サインをしないと危害を加えると言われた、多くの人を招待した結婚式が始まる直前にサインをすることを強要された、などの極端な事実が必要になり、ほとんどのケースでは自主的にサインをしたとみなされます。
(2)の「婚前契約書の内容がサインをした時点で不当な内容であった」は証明できる場合はありますが、通常婚前契約書には、相手方の経済状況の開示を受けた、もしくは開示の権利を放棄した、ということが明記されているので、その部分を証明することが不可能な場合が多いです。
ですから、婚前契約書はサインをしてしまったら通常法的効力を持つことになると考えてよいでしょう。異国で家庭を持って生活することは簡単なことではありません。結婚後に離婚したり、死別になったりした場合、何ももらえなくて本当によいのか考える必要があります。私が扱ったケースでは、交渉を通して100%理想の形ではなくても、お互い納得する形に内容を変更できることも多いですが、全く譲歩しない相手方もいます。サインする前に、まず弁護士に相談をするべきです。
宮本直子
Naoko Miyamoto Attorney at Law
父親の転勤で高校3 年生よりアメリカ在住。1997年カリフォルニア大学バークレー校政治学部卒業。2000年ハワイ大学マノア校法科大学院(ロースクール)修了。2001年ハワイ州裁判所・ハワイ地区米国連邦裁判所弁護士登録。ハワイ州最高裁判所を経て2001年より離婚やその他の家族法を専門に扱うクライントップ& ルリア法律事務所で家族法専門の弁護士として勤務後、2022年9月に『宮本直子法律事務所』を開設。

宮本直子法律事務所
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※このページは「ライトハウス・ハワイ 2026年6月」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。