かつては貴族のためのスイーツと言われた「チョコレート」。今では、世界中の誰からも愛される万人向けのスイーツだ。チョコレートには原料や製造工程に違いがあるのと同様に、作り手のストーリーもその特長として味に現れている。ハワイで注目のブランド、それぞれのチョコレートに隠された秘話もまたぜひ、味わってほしい。
2014年、緑溢れるハワイ・オアフ島マノアの街にヨーロピアンスタイルの手作りチョコレートの店として、夫のクリスと共にオープンした「チョコレア」。地元ハワイの人から観光客にも少しずつ名前が知れわたってきました。
「チョコレア」のチョコレートは元々、叔父と叔母が家庭で作り始めたホームメイドのトリュフが原型。ある時、2人が招かれたディナーパーティーに手土産を持って行こうと思い立ち、自宅のキッチンで作ったもの。それがあまりにもおいしくて、友人たちの間で評判になりました。とは言え、当時、叔父はハワイ大学のマーケティング・ディレクター、叔母はセラピストという、チョコレートには全く無縁の職業。ただただ、チョコレートが好きで作り続け、人に喜ばれればケータリングし、その儲けは寄付するといった、いわゆる慈善的なものでした。
小さい頃から彼らの作るトリュフが好きだった私は、MBAを取得したもののショコラティエの道を選択。彼らの味を踏襲し、モアナサーフライダーやフォーシーズンズ、シェラトン、ロイヤルハワイアンなどハワイの名門ホテルで「チョコレア」のチョコレートを販売する機会を得て、世の中に船出しました。
店舗をマノアにオープン後は、同じくショコラティエの夫がショップの裏にある工房でひとつひとつ丁寧に手作りしています。叔父叔母の世代と違うのはそのユニークなレシピ。ハワイとチョコレートの本場ヨーロッパの融合をテーマに、実験的なテイストも続々と開発。ドン・ペリニヨン、日本酒、梅、トビコ、ワサビ、豆腐、ノニなどおもしろ風味のチョコレートも提供してきました。
「1度に1つのチョコレート、それが平和を運んでくる」。このフレーズを企業理念に掲げ、今後もハワイのオハナ(家族)愛にあふれたチョコレートを平和のシンボルとして提供していきたいと思っています。
◎ チョコレア / CHOCOLEA
2909 Lowrey Ave., Honolulu
☎ 808-371-2234
▶ 営業時間:火~土10:00am~6:00pm
▶ 定休日:日・月曜
(語り手:Erin Kanno Uehara)
ハワイに移住する前は、カリフォルニア大学のコンピュータープログラマーというIT系の職業に就ていました。趣味は旅行で85カ国を旅していましたが、ハワイはずっと「ツーリストトラップ(※)」な場所だと誤解していたのです。
ところが14年前、友人の招待で初めてハワイを訪れ、空港に降り立ったその瞬間にハワイに恋をしてしまいました。他の国々とは違ったユニークさと誰も人の邪魔をしない雰囲気に惹きつけられ、ここに住みたいと思いました。同時に正統派のハワイ産のチョコレートがないということにも気付きました。もちろんマカデミアナッツチョコはありましたが、「ゴディバ」や「シーズ」はハワイ産ではありません。
そこでチョコレートでの起業を考え、無謀にも2004年に妻とハワイに引っ越してきました。実は当時、アメリカ国内で唯一ハワイ州でだけカカオが生産されていることも知らなかったぐらいに無知でした。後にハワイ大学の教授からハワイ産カカオの味わったこともない新しい味を学び、希望を見出しました。
(※ツーリストトラップ:旅行者を狙った詐欺などの悪質な行為や地元と旅行者の意向・目的とのギャップのこと)
2008年にハワイ・ノースショア産のカカオにこだわったチョコレートを販売したのですが、世界的な不況に入り、経済的に困窮。「海に落ちて、泳ぐか、沈むかどちらか」の選択を迫られる状態でした。好転の兆しが見えたのは、ロイヤルハワイアンセンターの屋上で開催されていたファーマーズマーケットに出店したこと。ここで、センターの担当者と知り合い、2013年にこだわりのノースショア産カカオ使用をうたい文句にロイヤルハワイアンセンター内に初めての「マリエカイチョコレート」路面店をオープンしました。
NYの「ファンシー・フード・ショー」に出店した時には、世界的に有名なフレンチチョコカンパニーからお褒めの言葉をいただきました。フランス人が食の分野でアメリカを褒めるなんて珍しく、うれしかったですね。今後も、フルーティーな風味が際立つノースショア産のチョコレートをワールドクラスに牽引していきたいと思います。
◎ マリエカイチョコレート / MALIE KAI CHOCOLATES
Royal Hawaiian Center B-1F
☎ 808-922-9090
▶ 営業時間:10:00am~10:00pm
▶ 定休日:ロイヤルハワイアンセンターに準じる
(語り手:Nathan Sato)
プラムやチェリーがたわわに実った美しい庭で遊んだ幼少期。ガーデニングが趣味の母の影響で、子どもの頃から植物に興味を持ち、成人してからはペルー、グアテマラ、コスタリカ、西アフリカなどを旅し、植物学の研究に没頭する人生を歩んできました。とは言え、大学卒業後は、シリコンバレーでバーチャルリアリティーやiPhoneのSiri(※)の開発に関わったり、NYで建築の歴史を教えたこともある変わった経歴ですが。
2001年、ある会議でハワイを訪れたときに、独特の熱帯植物が生い茂るハワイに魅了され、好奇心がムクムク湧き上がり、民族植物学の博士号を取得後すぐに、「ナショナルサイエンスファウンデーション」から奨学金を獲得。2年間ハワイ大学で研究することになりました。当時、友人からマヤ文明に関する本のカカオの章を執筆してほしいと頼まれ、カカオを研究。カカオニブ(※※)をコーヒーグラインダーで挽いては、自己流のチョコレートを作るほどにのめり込みました。
その結果、ハワイアンチョコレートのメーカーである「マドレチョコレート」を設立。世界各国のバラエティーに富んだカカオをハワイという1つの場所でチョコレートとして生産することにこだわっています。キレのある大人の味とユニークさが新鮮だと、「インターナショナル・チョコレートアワード」など数々のコンテストで賞をいただき、今では世界から注目されるチョコレートメーカーに成長しました。
土壌、気温、湿度などにより味の変わるカカオ。ハワイを始め、ペルー、ドミニカなどの農場と直接やりとりし、フェアトレードを遵守しながら、カカオの特性を生かし、調合の割合、発酵、焙煎などすべてに目を光らせながらオリジナリティー溢れるチョコレートを開発しています。
夢はみんなの家の庭にあるカカオの木でみんながチョコレートを作れる環境を促進すること。今、自宅で作る地ビールがはやっているように地チョコレートも夢ではありませんよ。
◎ マドレチョコレート / MADRE CHOCOLATE
●ホノルル・チャイナタウン店
8 North Pauahi St., Honolulu
☎ 808-377-6440
▶ 営業時間:月~土11:00am~6:00pm
▶ 定休日:日曜
●カイルア店
20A Kainehe St., Kailua
☎ 808-377-6440
▶ 営業時間:月~金11:00am~6:00pm/土12:00pm~5:00pm
▶ 定休日:日曜
※Siri:Phoneに内蔵されている音声認識ソフト
※※カカオニブ:カカオを砕いてフレーク(チップ)状にしたもの
(語り手:Nat Blettera)
「いらっしゃいませ!」。そんな日本語が難なく私の口から出てくるのは、日本からお客様がたくさんやって来てくれるから。チョコレート工房とテイスティングルーム、そしてチョコレートや関連グッズを販売している「マノアチョコレート」は、高校生の時からの恋人だった夫ディランと共同経営しています。
夫と私は共に、ハワイ大学でサスティナブル・ディベロップメントを専攻。主人より先に大学を卒業した私は、グリーンビジネスのコンサルタントをしながら、主人の卒業を待ちました。熱帯農業学やソーラーエナジーも学んでいた彼の興味がチョコレートに向いたのは、修士号取得のためにカカオの研究をしていた友人の影響。彼からハワイ産のカカオについて学んだ夫は、可能性を秘めた「ベビー・インダストリー」とも呼べるハワイのチョコレート産業に心が傾いていったんです。
2010年、夫が24歳の時にチョコレート・ビジネスをスタート。最初の2年はペルーやエクアドルなどのカカオの産地を巡ったり、作ったチョコレートをフェスティバルに出品したりと準備に奔走。ようやく2012年に、私たちが愛を育んできた地元ハワイのカイルアに店をオープンできました。
「マノア」と聞くと、広大な渓谷のあるマノアの地名と思われがちですが、実はハワイ語で「ディープ」の意味。ワインのように深みのあるダークチョコレート作りを目指し、そう名付けました。
地元ハワイ産だけでなく、世界中の素晴らしいカカオを輸入し、地元カイルアでローストし加工。各々のカカオ豆の特性を生かした風味高いチョコレートを作っています。特にカカオを高濃度で配合した高品質のダークチョコは私たちの愛の結晶。チョコレートにかける私たち2人の情熱をユニークな形で具現化したブランドが、「マノアチョコレート」と言えるのです。
◎ マノアチョコレートハワイ / MANOA CHOCOLATE HAWAII
315 Uluniu St., Suite 203, Kailua
☎ 808-262-6789
▶ 営業時間:月~土9:00am~5:00pm/日曜9:00am~2:00pm
▶ 定休日:無休
ファクトリーツアー(予約制:24時間前まで)
*英語/水・金・土3:00pm~、
*日本語/木曜3:00pm~(約45~60分)12歳以上から
(語り手:Tamara Butterbaugh)
(Photos: Linny Morris)
(’Eheu Spring 2017号掲載)