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ハワイの道から辿るヒストリー:クイーン・エマ・ストリート

(Text: Masakazu Asanuma / Illust: Shin Takahashi)

ハワイ王国と英国との絆を深めた女性

セント・アンドリュース・カテドラル教会
オアフ島のワイキキから車で約20分。総石造りのセント・アンドリュース・カテドラル教会は、天井まで届く高さ15メートルものステンドグラスが美しく、ハワイでの挙式スポットとして日本人にも人気だ

ハワイでは、今でも英国の香りを醸し出す場所に出会えます。その筆頭がセント・アンドリュース・カテドラル教会。王国時代から多くの外国船が出入りしたホノルル港。そこからマウカ(山側)に向かってアラケア通りを上がっていくと、ベレタニア通りと交差しますが、その角の東側に石造りの教会の塔が見えます。クイーン・エマ通りは、アラケア通りとベレタニア通りの交差点から山側に向かう通り。H-1フリーウエイの先のイオラニ通りに突き当たるまで続きます。
 
1836年ホノルル生まれのエマは、20歳でカメハメハ大王の孫にあたるカメハメハ4世と、英国国教会牧師の司式で結婚。2年後の1858年には息子のアルバート王子が誕生し、パンチボールの丘から祝砲が放たれ、町中に鳴り響いたとか。4世は英国のビクトリア女王に嘆願し、1862年に英国国教会のハワイ教区主教をホノルルに迎え、町の中心部にあった王領を与えます。そこに建てられた教会がセント・アンドリュース・カテドラル教会なので、この前の道が愛するエマ王妃通りと名付けられたことも頷けます。
 
自ら主教を迎え入れるなど、4世とエマ王妃は英国びいきとも見て取れますが、4世は米国によるハワイ併合の動きに神経を尖らせており、政治的均衡という意味においても英国寄りの立場をとったのかもしれません。しかし、エマ王妃の英国との関係にはもっと深い繋がりがありました。エマには4分の1、英国人の血が流れていたのです。

エマ王妃
www.shintakahashi.com

時代はさかのぼり、ハワイが王国になる4年前の1791年3月のこと。中国との交易をする米国船に乗っていた英国ランカシャー生まれのジョン・ヤングが、ハワイ島に1人上陸し、行方不明に。上陸の理由は定かではありませんが、後にハワイ王国を創り上げるカメハメハに捉えられ、大砲の使い方や帆船の操船の仕方などを伝授することになります。力を示すため、ハワイ島北西部カワイハエにプウコホラーと呼ばれるヘイアウ(祭祀場)を造り、諸島統一を虎視眈々と狙うカメハメハに協力したことで信頼を得て、英国のバンクーバー船長来島の際にはハワイ語の通訳も務めるなど、カメハメハ大王の腹心の部下の1人になりました。このジョン・ヤングの孫にあたるのが、4世のお后となったエマ・ルークでした。

生まれてすぐ英国人医師トーマス・ルークの養女として預けられ、ジョン・ヤングの妻がハワイ王族の1人であったことから、エマも他の王族の子女と共にロイヤル・スクールで学び、そして4世のお后になります。しかし、結婚後しばらくして突然の悲劇が起こります。4世により後継の王に指名された最愛のアルバート王子が4歳で他界。失意の4世自身も、息子の死後15カ月経った1863年11月に亡くなりました。
 
寡婦となったエマ王妃は、その後もヌウアヌパリに向かう丘の上にある、ホノルル港を見渡せる館に住んでいました。この館は現在も「エマ王妃夏の離宮」として一
般に公開されており、その頃の生活の様子を垣間見ることができます。今は建物だけが残されていますが、当時は、エマが叔父から受け継いだ広大な敷地の中にあり、パリ・ハイウエイを挟んで、現在ゴルフ場になっているあたりも、その敷地の一部でした。
 
さて、王妃の活躍は夫君と息子亡き後も続きます。1865年には、まだ建設途上のセント・アンドリュース・カテドラル教会と、それに付随する学校建設の資金を募るために英国を訪問。当初の目的を果たして帰国の途に就きます。ロンドン滞在中にはビクトリア女王にウィンザー城に招かれていま
す。そして、第6代の王ルナリロ没後の1874年には、ハワイ王国の女王になるべく立候補。カラカウアとの選挙に臨み敗北したものの、国民の多くの支持と期待を集めていた様子がうかがええます。
 
ハワイ州知事公邸ワシントンプレイスの隣に位置し、現在は米国聖公会の主教座聖堂であるセント・アンドリュース・カテドラル教会は、英国の教会そのものを感じさせる造りで、石造りの聖堂の入口近くにはカメハメハ4世と、49歳で亡くなったエマ王妃の姿を偲ぶステンドグラスがはめ込まれています。
 
(‘Eheu Winter 2018号掲載)
 
このページは「‘Eheu Winter 2018」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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