渡米したのは1998年、サンディエゴの大学と大学院で心理学を学びました。1歳半の頃から、どんなことも「なんで?」と聞く子どもだったんです。好奇心旺盛で、いつしか人間がどういうものかを知りたくなり、心理学に興味を持つように。それが今の教師という仕事に役立っています。
日本語教師になったのは2000年で、サンディエゴの私立高校や、駐在員のお子さんなどに教えていました。当時、学習障害の治験にも関わっていたのですが、そこで思ったのが「子どもたちが、病を患う前に助けることができないか」ということでした。そのフロントラインにあるのが教育で、彼らを受け入れる体制づくりが重要だと思い、教育の道を選びました。
ハワイへ引っ越してきたのは息子がきっかけなんです。当時1歳になる息子にアトピーとアレルギーがあったのですが、家族旅行で訪れたハワイで、彼の症状が格段に回復したのです。私の負担も軽くなりますし、サーフィンが趣味の私にとってはその環境も魅力で、1年後の2011年に家族で引っ越してきました。
その後、2015年に今の学校で日本語教師として働き始めました。カトリックの女子校で、面接の際に「息子がまだ小さいので病気になったときには休むかもしれない」と伝えると、快く理解してくれたアットホームな学校です。女子校勤務は初めてでしたが、女性は「言葉」を使って人や物事とつながる傾向にあるので、教えやすいと思ったのが最初の印象でした。
現在、幼稚園生から高校生までを担当していますが、思春期の生徒も含め、心理学が生かされています。人は基本的に全員が優しい心を持っていて、誰かとつながることを拒まないものです。ただ、さまざまな経験により鎧をまとってしまうことも。感情も人間のシステムのようなもので当然のことなんです。それを基盤にすれば、難しい問題であっても一歩外側から全体を俯瞰して見ることができます。そして冷静にプロセスを踏んで解決しています。
そんな毎日の中で意識しているのは「気付き」。人は気付くことで成長すると思うのです。たとえ小さくても気付きを得られる場をつくることを心掛けています。私が生徒たちから気付きをもらうこともたくさんあって、だからこそ毎日が新鮮で楽しいんです。
米本土と比較すると、多様な文化が混ざっているハワイは人の心が豊かな所だと感じます。このコミュニティーの中で役に立ちたいといつも考えています。
そのために勉強も欠かせません。昨年からハワイの日本語教師会で会長を務め、みんなで教育を高めるための情報交換などをしています。またハワイ州での外国語教師協会では「エクセレント・ティーチャー」に選んでいただき、ハワイ代表となりました。まもなくアメリカ南東部の大会に参加します。それに向けて今は今年の目標「何事にもオープンであること」を意識して、いろいろな人と話しながら、本当に自分の伝えたいことを見つけ出すことに専念しています。特に、なぜこの仕事をしているのかを深く考えることに集中して、形作りをしているところです。このプロセスも楽しみたいと思っています。
世界中が目まぐるしく進化する今、教育現場も、テクノロジーも、人間も、日々変わっています。そんな社会では、自分の立ち位置をしっかり持ちながら瞬時に判断して生きていくことが必要です。趣味のサーフィンだけでなく、社会の変化の波にも乗っていきたいと思います。
Nami Grafia◎東京生まれ。1998年渡米。サンディエゴのコミュニティーカレッジを経て、National Universityで心理学の学士をとり、UCSDメディカルセンターの精神科でリサーチアシスタントをしながら、現地私立高校で日本語教師を行う。California Institute for Human Scienceで修士過程修了。2011年にハワイ移住。2015年からSacred Hearts Academy勤務。World Languages Department Chair、日本語教師会会長。
※このページは「ライトハウス・ハワイ 2024年2月」号掲載の情報を基に作成しています。