「法廷に立つ人になりたい」と思ったのは11歳のときでした。シングルマザーで私を育ててくれていた母が困っている姿を見て、家族や生活に関する法律を学ぼうと思ったのが理由です。
大学時代、ゼミの教授がアメリカでも教壇に立つ方だったのでロースクールに興味を持ち、卒業後はオレゴン州の大学のロースクールに進学しました。理論の勉強が主流の日本に対し、アメリカでは交渉術など実務的なことを学ぶことができ、充実した時間でした。
大学の研究と修士論文でハーグ条約をテーマにしていたこともあり、最初の就職は外務省のハーグ条約室へ。それまで学問であった法律が実務となる中で、経験を積むことができました。
1年後の2018年、次のステップとして弁護士を目指すために来たのがハワイでした。ハワイ大学はアジア法を学べる数少ないロースクールの一つであり、かつて留学していた米本土と日本の中間にあるハワイの文化や人にも関心がありました。クラスにはさまざまなバックグラウンドを持つ人が集まり、高め合いながら勉強することができ、素晴らしい先生たちにも恵まれました。
そんな尊敬する先生の何名かが勤務されていたのが、『リーガルエイド・ソサエティ・オブ・ハワイ』でした。中低所得者を対象に、法律支援を無料で行う組織です。
ハワイに法律を無料で相談できる組織があることに驚き、少しでも関わりたいと思って応募しました。相談は、家庭や住居、移民、ソーシャルセキュリティやフードスタンプなどのベネフィットの問題など民事系一般の多岐にわたります。
弁護士の資格を取得後は、移民専門の弁護士として犯罪被害に遭われた方の支援をさせていただいています。日本の方々は、家庭でのドメスティックバイオレンスや職場でのビザスポンサーからの不当な扱いなどに対して、ビザの問題で帰国しなくてはならないと思い、誰にも相談できずに耐えている方が多くいらっしゃいます。抱え込む必要はなく、法律の下でアメリカで生きていく方法もあるということを知っていただきたい。そう思いながら、彼らが強制送還にならないよう弁護をさせていただいています。
大切にしているのは、気持ちに寄り添いながらもバランスを保つことです。トラウマを抱えている方へは、セラピストになるのではなく、私の役割を伝えた上で向き合い、必要に応じてセラピストを紹介します。相談者にとって一番の利益になることを、複数の選択肢から順番を考えて提示するなど、個々に合わせた最善の手段を常に考えています。
一方で、今はマウイ火災で紛失したパスポートや永住権の申請支援なども行っています。私たちがお手伝いできることは少なく、もどかしい気持ちです。
仕事に日々全力で向かえるのは、幼少期の母を見ていたからだと思います。困っていた母のために自分が何もできなかったことが悔しかったんです。その思いが根底にあって、今なら少しはできることがあると思えるようになりました。恩師は「私たちは依頼者の一生を抱えることはできない。それでも一生のうちのほんの少しの間、その荷物を持ってあげることはできる」と教えてくれました。
今、アメリカ法の中で働く一方で、日本の法律について、私は美しいと思っています。論理的にできていて、法廷での判決の言い回しには日本の社会や文化を備えた美しさがあります。日本法をもっと学んで関わっていくこともゴールの一つです。
Makoto Messersmith◎1991年奈良県生まれ。早稲田大学法学部卒業。フェローシップでヴァンダービルト大学で1年就学後、オレゴン大学ロースクールで紛争解決学・アメリカ法を専攻し、修士号取得。台湾でのフェローシップを経て2017年外務省ハーグ条約室入省。2018年、ハワイ大学のロースクールへ進学、2021年に弁護士資格を取得。リーガルエイド・ソサエティ・オブ・ハワイに移民専門弁護士として勤務。
※このページは「ライトハウス・ハワイ 2023年10月」号掲載の情報を基に作成しています。