
沖縄で生まれ育ち、中学時代のNASAスペースキャンプの体験から、世界で活躍する天文学者となった嘉数悠子さん。現在、教育普及を軸に、日米政策のフェローなど活動の範囲を広げる彼女には、数々の転機があった。
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幼少期は家で本ばかり読んでいた内向的な子どもでした。その性格が変わったのは、大けがで1カ月学校を休んだことがきっかけでした。遅れを取り戻すために母と二人三脚で猛勉強した結果、それまで赤点だったテストがクラス一位に。人生で初めて皆の前で先生に褒められたことが、大きな自信につながりました。
中学生時代、先生に勧められて手に取った科学雑誌『ニュートン』でNASAの宇宙画像に心を奪われ、目に止まったのが「スペースキャンプ」募集の文字。両親に冗談半分で「行きたい」と伝えると、応援してくれたのです。中学2年生で参加したこの体験により、天文学者を志すことになりました。
東北大学を卒業後、ハワイ大学天文学研究所、パリ天体物理学研究所、カリフォルニアとシカゴの大学で研究に従事しました。ところがシカゴで自己免疫系の病に。半年間の闘病生活で考えたのが「明日命が無くなるなら何をするだろう?」。その答えは「研究ではない」でした。その後、リハビリを兼ねて始めたプラネタリウムのボランティアで、天文学を伝える喜びに目覚め、次世代に科学を届ける使命を感じました。研究者としても、500を超える銀河を発見するなど充実していましたが、論文や学会発表にとどまらず、社会へ還元する役割が不可欠だと考えたのです。
そして2013年、すばる望遠鏡の教育普及スペシャリストとしてハワイ島へ戻ってきました。ハワイでは、故郷の沖縄の天文学、歴史と文化を学ぶ機会があり、そこで知ったのはハワイと沖縄の類似点が多いことでした。一つは、教育や生活の水準に課題を抱えているという点です。
2015年のTMT望遠鏡建設に対する反対運動以降は、ハワイアンの方たちと対話を重ねました。マウナケアは聖地であり、その将来は彼らが決めるべきだというのがTMTのスタンスです。今ではハワイアンの方々がTMTのアドバイザーとなり、共に教育や職業訓練プログラムを進めています。ハワイアンと沖縄の子どもたちとの交流、コミュニティーカレッジの学生への職業訓練、教育に遅れをとった生徒たちへの個人指導や出張授業など、地域のニーズに沿ったプログラムを作り、実施しています。
こうした教育を含め、科学技術の政策を進めるには日米の協力が不可欠です。そのため、フェローとして日米政策プログラムにも関わるようになりました。
仕事をしながらシングルマザーとして6歳の娘を育てられるのは地域の支えがあるからです。これまで一人で全てを背負ってきた私に、ハワイの方々は、頼ること、支え合うことを教えてくれました。
ハワイは多文化共生社会である一方、世界は社会が分断され、AI技術の進化が著しくなっています。今後一層重要になるのは、人と人とのつながりです。未来を担う子どもたちへの教育を通して、ハワイと沖縄、アメリカと日本をつなげ、強い絆のもとに助け合う社会を築くこと、多様性を大切にする未来を創造することが、私のゴールです。

かかず・ゆうこ◎沖縄県出身。東北大学(物理学系宇宙物理学科)卒業後、ハワイ大学天文学研究所で修士・博士号 (Ph.D.) 取得。フランス・パリ天体物理学研究所、カリフォルニア工科大学、シカゴ大学での研究職を経て、2013年にすばる望遠鏡勤務のためハワイ島へ。現在、国立天文台ならびTMT国際天文台所属の教育普及マネージャー、天文学者。
※このページは「ライトハウス・ハワイ」 2025年11月号掲載の記事です。