ニューヨークのカーネギーホールやヨーロッパ各地の国際ピアノコンクールで入賞者を輩出する『リネーズ・ミュージック・スタジオ』。揺るぎない目的に向かい、挑戦し続けるリネー・テルヤ社長に転機を伺った。
私には三つの大きな転機があります。3歳でピアノを始めて以降、教育熱心な親の下、音楽教育と受験勉強で毎日をこなすのに精一杯でした。「周囲に恥ずかしい姿を見せてはいけない」と育てられたため、心が病んでも誰にも言えず、這うように通学し続け、なんとか大学を卒業しました。
限界だった22歳、自由を求めてハワイに来ました。本当の愛を知らないまま結婚。うまくいかずに疲れ果て、後にがんを患い帰国しました。快復しましたが、幼少期から生きる希望のなかった私は、人生を終える前にもう一度ハワイに行こうと思ったのです。
2回目のハワイで出会ったのが教会でした。自分の過去を打ち明けることが許され、愛を知り、人生で初めて「生きよう」と思うことができました。これが最初の転機です。
嫌悪感があったピアノを、卒業以来10年ぶりに教会で弾くことになったとき、体が拒否反応を起こしました。徐々に弾けるようになり、子どもを授かったころ、近所から子どもにピアノを教えてほしいと頼まれたのです。教えてみると「楽しい!」と喜んでくれ、嬉しくなってこれを天職というのかと思いました。そのうち依頼に応えきれない数になり、勤めていた仕事を辞め、場所を借りて教えることに。先生も雇い、2018年に音楽スタジオを立ち上げました。あれほど嫌いだったピアノを教える人生になったこと、これも大きな転機でした。
私は自分の経験から、親御さんに連れて来られる子どもたちの気持ちのスイッチがわかるんです。約350人に増えた生徒たちは、ニューヨーク、パリやウィーンなどの著名コンクールに出場して生き生きと活躍していきました。
最後の転機はコロナ禍でのこと。大事に飼っていたつがいのラブバードが、鍵をこじ開けて2羽とも逃げてしまったんです。オスは見つかり、メスを朝から晩まで3週間探し続けました。1カ月後、保護されているのが見つかったとき、感動で震えが止まりませんでした。小さな鳥1羽に、尋常ではない状態になる自分を振り返ると、いつも動物がそばにいて助けられてきたことに気付いたのです。つらかった幼少期には毎晩涙を拭ってくれた犬を抱きながら寝ていました。私は動物たちへ恩返しをしなくてはならない。社会問題にもなっているペットを始め動物を救わなくてはいけない。思えば車にひかれそうになった犬を助けるために無心で道路に飛び込んだこともあり、自分が生かされている理由を理解しました。
これにより変わったのは経営者としての意識でした。動物の命を救うために大切なのは愛と優しさです。私が生徒や先生たちに愛を持って接し、彼らが満たされることで、優しさが千人、1万人、世界へと伝染するはずです。しっかり経営を成り立たせなければこの好循環は継続しません。
8月にはハワイで国際音楽コンクールを主催し、各国からの出場者や先生たちがすばらしい時間を共有しました。三つの転機を経た今、全てを前向きに捉えて歩んでいます。
Renee Teruya◎ピアノを3歳で始め、国立音楽大学附属中学校、高校、国立音楽大学を卒業。大学卒業後にハワイへ移住。一度帰国、再度ハワイへ。2018年にハワイを拠点に音楽学校を開校。法人化以前を含め、22年間で5万回以上のレッスンを行い、多数の生徒が国内外の名門音楽大学や音楽学部に合格。2024年8月に初めてハワイで国際音楽コンクールを主催した。
※このページは「ライトハウス・ハワイ」 2024年9月号掲載の記事です。