100年を超えて訪れる人を魅了してきたハレクラニ。ハレクラニ コーポレーションCEOで、ナ・ホク賞ファイナリストジャズトリオ『Red Nova』のトランペット奏者、ピーター・シャインドリン氏の生き方とは?
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私はビジネスと音楽を並行してパラレルな人生を歩んできました。父はニューヨークで映画やテレビ音楽の作曲家、母は文学とアートに造詣が深い知的な人で、私は幼少期から音楽を学んで育ちました。
時代は1970年代のニューヨーク。トランペットを演奏していた18歳の私は、ジャズクラブで演奏するようになりました。そんな中でバーテンダーとなり、食品・飲料関係のサービスに携わり、その流れでNYで著名なホテルをマネージすることに。周りは数カ国語を話すヨーロッパ出身者ばかり。到底私は競争にもならないわけです。でも自分は音楽の経験から、よりクリエイティブなアプローチができると見出し、彼ら同様にホテルスクールへ行くのではなく、アートスクールへ。ニューヨーク大学で、写真、ライティング(主に詩)、音楽を学び、表現方法は違っても同じものを伝えるアートの真髄を修得しました。
人は私をラグジュアリーホテルのスペシャリストと言ってくれますが、一つずつ仕事を得てきたに過ぎません。でも私はアートも知っています。
ハレクラニは多くの芸術や文化関連組織をスポンサーしています。10年前、協賛したオペラのチケットを、あるハワイの議員に譲ったことがありました。先日、電話があり「あのときオペラ鑑賞した娘は音楽を学ぶためNYの学校へ進学した」と! これこそが私たちがスポンサーを続ける理由です。大切なことはホテルの外見ではなく、ホテルを通して、一人の人生に影響をもたらすことなのです。
トランペットを吹いて50年余りとなり、夢だったフリージャズバンド『Red Nova』を結成しました。トランペット、ベース、ドラムだけで、歌もなく、従来のジャズの形式を踏襲した楽曲もありません。ライブ当日にステージに立ってライトを浴びた瞬間に音楽が生まれます。
昨年のライブに、デジタル世代の20〜30代が来てくれました。彼らは「世にあふれる商業目的の音楽やSNSに疲れた」と言っていました。先日は、父の祖国であるウクライナの子どもたちのために活動している方から連絡を受け、彼らに向けて演奏した動画を送りました。このように、単なるジャズ、音楽ではなく、真の美しさ、ポジティブなエネルギー、平和のメッセージであり、届いた人の変換につながる経験を創造するのが、Red Novaなのです。
最後に、こうした私の哲学につながった転機をお話しします。それは50代半ばにオックスフォード大学へ入学したことです。市長になる前のリック・ブランジャルディ氏と昼食した際、人の人生を変える人、世界を変える人の共通点を尋ねると「一生学び続ける人」だと。その後、大学でグローバルビジネスを専攻し、夜は図書館で大好きな詩や哲学を学びました。そこで気付いたのです。芸術の意味は、人間の本質、人間性だということを。そして、私にとって仕事と音楽は、責任であり、意味のある経験を作り出し、魂を変えること。それが私の生き方だということを。
Peter Shaindlin◎ニューヨーク出身。7歳で初めて読んだ本が三島由紀夫。近藤等則のジャズ、神道にも感銘を受ける。ニューヨーク大学でアートとビジネスを専攻。ロータス・ラグジュアリー・グループ創業パートナー、ローズウッド・ホテルズ&リゾーツ、国連本部のフード&ビバレッジ部門などを管理。現職となり21年目。途中、オックスフォード大学グローバルビジネス専攻、卒業。
※このページは「ライトハウス・ハワイ」 2025年4月号掲載の記事です。