バブル崩壊、欧州通貨統合、リーマンショックといった経済変動に加え東日本大震災も経験し、多くの変化を乗り越えてきた藤村貴弘さん。『ハワイ東海インターナショナルカレッジ』着任に至る転機を伺った。
私のキャリアを振り返ると、長年にわたり国際ビジネスの舞台で奮闘してきました。バブル崩壊以降、日本経済が停滞した時代でしたが、当時私が勤務していた企業は幸運にも海外市場で新たな商機を見い出し、グローバル企業となりました。この間の経験は個人の成長へもつながりました。
もともとは国内営業から企画、宣伝を経て海外営業に進み、ヨーロッパ駐在は5カ国に及びました。欧州通貨統合では多くの企業の買収や合併を経験しました。多岐にわたる交渉によって、ビジネスの枠を超え、文化や価値観の違いを理解し、共通の目標へ向かう努力を学びました。十数年の駐在後、本社営業部長として帰任した直後に東日本大震災が起こり、構造改革を迫られることに。それまでの「日本製」神話は崩れ、グローバル戦略を実行するため、翌年、営業責任者としてアメリカに赴任しました。
その頃、わが家の子ども3人は、中学、高校、大学への進学期に入っていましたが、家族で過ごす時間は残り少ないと感じ、一緒に渡米しました。日本で生まれ、欧州で育った彼らは、アメリカの教育システムに翻弄されながらも、それぞれが現地の大学へ進み、多様な文化や背景を持つ学生と交流することで国際的な視野を身に付けました。
そんな子どもたちの独立を機に決断したことが、私にとって転機となりました。これまでの経験を、新たな職場であるハワイ東海インターナショナルカレッジで生かすため、ハワイに移住したのです。
このカレッジは、「アジア太平洋地域の若者が地球市民として生きる礎を教育する」ことに重点を置き、アメリカの二年制私立大学として認証されています。ハワイ大学ウェストオアフ校と連携し、施設は供用され、学生寮ではハワイ大学の学生と共に暮らすことができるため、留学生にとって異文化交流の機会も豊富にあります。
ここで2年間を過ごしたある留学生の相談を受けたときのことです。彼女は経済的事情もあり帰国子女として日本の地元の大学へ進学するよう両親から諭されていました。選択肢を広げる情報を提供したところ、彼女は奨学金を得て米本土の四年制大学へ編入しました。これは単なる進路の選択ではなく、前向きな変化の姿勢を示すものです。これこそが本校のグローバルな価値だと強く共感します。
私自身は日本で生まれ育ち、いずれ帰任することが前提の駐在員でした。ですが、こうした学生たちや、わが家の子どもたちのように、多様な価値観を認めつつ自立する生き方ができるようになる変化は、
アメリカの大学での学びがもたらしてくれると実感していします。いずれ多くの分野は人工知能に置き換わりますが、人間の特性と能力が重視される側面では、異文化理解と適応力が不可欠です。若いうちから国際感覚を磨くことは、これからの時代を生き抜く力となります。留学は価値ある投資です。私はグローバルに挑戦する学生たちを応援していきたいと思います。
ふじむら・たかひろ(Taka Fujimura)◎兵庫県出身。1988年ヤマハ発動機入社、1999年欧州駐在を皮切りに2008年ヨーロッパ現地法人副社長、2012年アメリカ現地法人副社長、2016年メキシコ現地法人社長を歴任。2018年、東京をベースに国際渉外の職務に就く。2022年にハワイへ移住し現職。
※このページは「ライトハウス・ハワイ」 2024年5月号掲載の記事です。