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紆余曲折を経て、パンデミック直前に開業したハワイの酒蔵『アイランダー酒』。以降、右肩上がりに業績を伸ばしてきた今、さらに大きく羽ばたこうと夢を追い続ける創業者で杜氏の高橋千秋さんに転機を伺った。

東京にあるお寺の娘として生まれました。住職だった父と、父を支える母を見て育ち、父は困っている人を100%助けていたので、私も困っている人を放っておけない性格。両親の影響を感じています。

 日本では長年、医療研究を行っていました。主に拒食症を研究し、それに関連が深いストレスをテーマに実験を行いながら薬の開発をしていました。動物実験で問題が山積し、自分自身にストレスがたまってしまい、友人とお酒を飲む機会が増えていきました。幼少期に母が近所の人たちと縁側でお茶を飲んでいただんらんと重なり、気持ちが楽になるのです。そのときにふと思ったのが、「お酒は薬を超えている!」ということ。 

 そこで、薬ではなくお酒の研究を始めようと、山梨大学の門を叩いたのが、2011年3月10日。東日本大震災の前日でした。ちょうど40歳だったこの日が私の転機です。

医療から酒の研究者へ、さらにハワイで酒蔵立ち上げ

お酒の研究をしていくうちに、酒造りに必要な微生物も、植物も、人間も、構造が共通していることを知りました。医療研究をしていた私にとって醸造学は非常に理解しやすかったのです。医学博士号を修得後、大学で准教授として酒造りなどを教えていました。

 そろそろ45歳、夢を叶えるときだと感じました。というのも、20歳でなんとなく訪れたハワイに魅せられ、「50歳になったらここに住もう」と決めていたから。以来100回以上来ていたハワイで何をするか…? 自分が専門としている酒造りをしたい。日本文化を伝えたい。ハワイの風の中で育ったパイナップルと日本酒を合わせてみたい。そんな思いで準備を始めました。

 一人では何も分からず、英語も難しく、契約書へのサインが怖くて、何度も機を逃し、トラブルも多々ありました。あまりにも高額な勉強代を払いましたが、5年後、ついにカカアコに酒蔵をオープン! というタイミングでやってきたのが新型コロナでした。

 周りの反対を押し切って開業したのは2020年3月16日。医療研究者として、疫病はすぐに収束しないと分かっていたからこそ、今オープンしなかったらこの先も開けない。それなら開業して失敗した方がいいと思ったのです。

 まもなくしてロックダウン。造ってしまった100リットルのお酒をボトルに詰めて売ったところ、初日に1本売れました。21ドルのこのお酒が売れたときの嬉しさは忘れられません。2日目には2本、そして今日に到るまで右肩上がりで来られました。しかも、お客さんがお酒を取りに来るときにお喋りをして帰っていく。まさに、お寺の縁側でお茶という日本の習慣も生まれたことに感謝しかありません。

日本文化とハワイの風を入れる酒造りを叶えるために

今年、日本酒に合う料理を提供するレストランをダウンタウンに移転オープンすると同時に進めているのが、一番好きな場所であるハワイ島に酒蔵を移すこと。ハワイの風を酒に入れ込むためにハワイ島で最も風が薫る場所へ…。

 「叶う」という字のごとく、これまで夢を十回口に出して叶えてきました。今も夢を口にしながら歩んでいます。

2月開店の『Hanale by Islander Sake』で日本酒に合う寿司を提供

高橋千秋

たかはし・ちあき◎東京出身。日本女子大学物理化学部卒業後、東京女子医科大学の研究員へ。日本医科大学大学院で医学博士課程修了。山梨大学で醸造学を学び、准教授として大学で酒造りを教えるなど教鞭を執る他、酒類総合研究所勤務を経て、ハワイへ。2020年3月にカカアコに酒蔵を開く。続いて、敷地内に日本酒と料理のコースを提供する「蔵キッチン」も開店。

※このページは「ライトハウス・ハワイ」 2022年2月1日号掲載の記事です。

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