僕はよく人に、自分が日系人であることを誇りに思っていると言う。知り合いの非日系人は、ほとんどがアニメやビデオゲーム、ファションデザイナー、コスメ、スキンケア、食べ物など日本にルーツを持つ何かのファンで、それは僕をさらに誇らしげな気持ちにさせる。唯一、真珠湾に行ったときだけ、微妙に罪悪感を感じ、胸を張って歩けない。それは、僕も僕が知っている人たちも誰1人何ひとつ関わった訳ではないのだが、世の中には復讐心を抱き続けて生きている人たちがいるからだ。アメリカが第二次世界大戦に参戦するきっかけとなった出来事の責任をその後に生まれてきた世代に押し付けるのは、奴隷制度の責任を今生きているアメリカ人に問うことや、ナチスでなかったドイツ人を責めるのと同じくらい馬鹿げたことだ。それよりも、過去から学んでその教訓を未来に活かしていく。そうしなければいけないと僕は思う。
「ジグ」は、人がどのように生きるべきかという観念に通じるものがあるレストランだ。伝統的なコンセプトに根ざしつつ、未来を見据えた料理へのアプローチを進めるこの店での食体験は、とてもおもしろい。僕はもちろん伝統を重んじるレストランでの食事が好きなのだが、もしもすべての店が伝統料理だけに固執してしまったら、いくら新しい店がオープンしても新鮮さに欠けてしまう。
ワイキキのシーサイド・アベニューに新しく誕生したこの居酒屋は、フレッシュなハワイの幸を活かした和食を楽しませてくれる。店名は漢字で“地喰”。ローカル食材を食べるという意味だけあって、豚肉、牛肉、海老、卵、チーズ、トウモロコシ、生姜、ヤシの新芽、キノコ、柚子など使う材料をハワイ諸島各地の生産者から仕入れている。
マサキ・ナカヤマ氏がプロデュースしたメニューは、どれもびっくりするほど多くの材料で作られている。純和食というよりは、創意工夫を凝らして昇華させた新感覚の居酒屋定番料理が揃う。
たとえば、ハワイの野生とローカル野菜メニューには、ヤシの新芽の天ぷら、ハワイ産野菜の自家製ピクルス、マウイオニオンスライス&アボカド、ローカルロメインレタスのシーザーサラダ オアフ島ネイキッドカウフェタチーズ、アロハ豆腐とエバスイートコーンのがんもどきがある。
小皿料理も種類豊富だ。マカダミアナッツがややトゥーマッチな感は否めないが、概してローカル食材とアメリカンフレーバーを上手に活かしながらまとまり良く仕上げられている。マカダミアナッツときんぴらゴボウ マンゴークリームチーズは、不思議なコンビネーションのように思えるのだが、意外や意外、なかなか好相性だ。アップルウッドで燻製したローカルエッグを添えたポテトサラダは、スモーキーな味わいが絶妙。ローカルバジルのアイオリソースでいただくカウアイ島産海老の揚げ物は、パリッとした食感とハーブ味が美味。ワラビと餅団子(やはりマカダミアナッツ入り)を添えたポノポークの角煮は、ラウラウを意識したものだ。
刺身は、ハワイでとれたマグロ、カンパチ、アジ。寿司は、ローカルケールとハワイ産野菜の巻き寿司、カウアイ島産海老天の巻き寿司、ポキ寿司、ローカルかっぱ巻きなど地元産の幸を使ったものがより豊富に揃う。メインは、サーモンの西京味噌焼き マカダミアナッツクラスト(これにもマカダミアナッツが使用されている)、ポノポークの生姜焼き、鉄板サイコロステーキ ローカルおろし大根とポン酢など。シェアするなら、ローカルケールとポノポークのジンジャー鍋、ローカルロメインレタスと鶏の水炊き 鶏白湯スープといった鍋料理。そして締めは、各種ケールうどん、ハワイ産生姜の薬膳ミニカレー、ポノポークオムライスを。
店内は、さまざまなエレメントが溶け合ったフュージョンテイストの空間。入ったところにまずバーカウンターがあり、その奥に居酒屋風のカウンター席が用意されている。外のパティオは中とは打って変わって開放的なスペースで、ブロック塀の向こうに賑わうワイキキの通りがあるとは思えない落ち着いた雰囲気だ。
ジグは、ハワイの自然の恵みと心なごむ和の感性を融合させ、両世界のいいとこ取りに成功している。過去の痛みや恨みを捨てられずにいる人たちにも、食を通して愛を広めることができればと僕は願い続ける。
◎ マーケティング会社社長。ハワイ随一のグルメ通として知られている食いしん坊。
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(2018年8月1日掲載)
※このページは「ライトハウス・ハワイ 2018年8月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。