レストランにとってエンターテイメントは下手すると転落への道になる。片隅で静かに奏でるピアニストであれ、セレナーデを歌いながらテーブルを回るギタリストであれ、男性たちを歓喜させるベリーダンサーであれ、レストランオーナーたちは、それが店のムードやサービス、食事にどんな影響を与えるかよく考えなければならない。
僕はフードライターだから、当然レストラン自体に細かい注意を払う。だから僕にとってエンターテイメントは、注意力を散漫にし、正しい評価を困難にする原因となる場合がときにある。スポットライトがステージに当てられ、肝心の料理がよく見えない。仕方なくポータブルLEDライトを取り出して写真を撮ると、他の客に迷惑顔される。僕ら食通は、とにかく写真を撮らないことには食事がはじめられないのだ。連れの言っていることさえ聞こえないほど音楽がやたらやかましい店もある。目の前でマリアッチが演奏しようものなら、もうどうしようもない。そうは言え、客としての僕は素敵な夜を過ごしたい。だから、カクテルを傾けながら素晴らしいパフォーマンス(妻はお年寄り向け音楽と呼ぶが)が楽しめる場所はないものかといつも探すのだが、これがなかなかないのだ。
カポレイのカ・マカナ・アリイに最近、サンフランシスコ発のペルーレストラン『リモン・ロティサリー』がオープンした。この店も近々エンターテイメントのサービスを始めることを考えているそうだ。目下、ダンスチームのCity Boysをレギュラーにするとか、週末のディナー時間帯はレゲエ、ポップ、ロックの生演奏をローテートするとかいろいろなアイデアを模索中らしく、詳細はまだはっきりしていない。
僕としては、決定するまでは引き続き、この店のサクサクのエンパナーダや柔らかなグリルドオクトパス、しっとり焼き上げたロティサリーチキンのためならば、30分(午後2時30分から6時までのラッシュ時以外)のドライブを惜しまないつもりだ。ロティサリーチキンは、魔法のように美味しいアヒアマリージョ(ペルーの黄唐辛子)とワカタイ(ペルーのハーブ)のソースをかけるとさらに美味しさがアップする。味覚を目覚めさせるマイルドなスパイスとアイオリに似たなめらかな食感のハーブのアロマが微かにする絶品ソースだ。セビーチェはどれもレチェ・デ・ティグレがやや塩っぱ過ぎまたは酸っぱ過ぎだったが、注文したそれ以外の料理はほぼどれもほっとさせられる味わいだった。冷たいメニューには、唐辛子または柑橘ベースのドレッシングがペルーらしさを醸し出すサラダ類、カンチャ(ドライコーン)やロコト(ピリ辛赤唐辛子)を取り入れてエスニックに仕立てたポケなどが含まれる。
温かいメニューは、タコ、舌平目、牛タン、チキンなどの肉・魚類や、ペルーの唐辛子ソースでマリネまたは和えたマッシュルーム料理などがある。唐辛子ソースは辛さ控えめなので、辛いもの苦手でも楽しめるはず。トップサーロインステーキ、チキン、野菜、あるいはチーズをパイ生地で包んで焼いたエンパナーダをまず楽しみ、その後ローストポークチョップ(アヒパンカ赤ワインデミグラスソース)、しっとり仕立てのペルー風パエリア(サフランライスに新鮮なシーフードをのせて)、骨抜きショートリブのワカタイ&コリアンダー煮込みなどのシグネチャー料理、そしてマリネチキンを直火で焼いたロティサリーチキンを。このチキンはしっとりと柔らかく塩加減も完璧で、絶対に外せない。アヒアマリージョ・ワカタイソースが最高によく合う。僕はこのソースを衝動的にほぼすべての料理につけてしまった。
店の雰囲気はカジュアル。ウッドをはじめとするナチュラルな色調に、スチールチェアがいいコントラストになっている。メインダイニングルームにはオープンキッチン(これも一種のエンターテイメントかもしれない)があり、外にはパティオ席が用意されている。バー横のラウンジは、映画や買い物の前にピスコサワー(ペルーのカクテル)をちょっとひっかけたいときにちょうどいい。スタッフはフレンドリーでサービス精神旺盛。もしかしたら、頼めばセレナーデのひとつも歌ってくれるかもしれない。僕はこれからもこのレストランのことを誉め続けると思う… 少なくともエンターテイメントのラインナップが決まるまでは。
◎ マーケティング会社社長。ハワイ随一のグルメ通として知られている食いしん坊。
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(2018年1月16日掲載)
※このページは「ライトハウス・ハワイ 2018年1月16日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください