僕が学校で嫌いだったことのひとつは、義務教育制度ゆえの面白くもない教科書や本を山のように読まされたことだ。ページをぼんやり眺めながら、何ページ読んだか、あと何ページ残っているかを何度も何度もチェックしていたのを憶えている。大人になった今では自分の好きな本が読めるのだが、今度は読んでいる時間がない。読みたい本はいくつもあるが、特にずっと長い間そう思ってきた本のひとつは、世界的に有名な食物と調理化学の権威ハロルド・マギー氏著の「On Food and Cooking」だ。1984年に出版されたこの本は、食品化学、調理科学、食の歴史を、材料間に起こる化学反応や正確な温度設定の大切さなどを細かく説明している。科学を料理に適用した新しい調理技術、分子ガストロノミーを化学的に解析することで、調理を基本的に理解する助けをしてくれる。だから、特にフードライターである僕にとって、何が料理を美味しくし、何が不味くするかを把握し、またそれを人に伝える上で役に立つだろう。

 

しかし、この本を読む時間ができるまでは、とりあえず僕は実際に食べに行くという従来通りのやり方を続けるしかない。幸いにも、昨今のハワイは、例えば最近ホノルルにオープンした創作和食の『山田チカラ』が提案するモダニストなコンセプトを受け入れられるまで進化している。店名から察せられる通り、メニューはオーナーシェフの山田チカラ氏自らが監修したものだ。名高いスペインのレストラン El Bulli(エル・ブジ)の巨匠フェラン・アドリア氏の元で腕を磨き、食物化学への造詣を深めた彼は、その後、独特の解釈のフュージョン料理を提供する隠れ家創作和食の店を南麻布に開店した。そして最近ニューヨークに進出。ミッドタウンイーストにオープンした店が、マンハッタンで最も注目されるハイエンドのおまかせジャパニーズレストランのひとつとして絶賛を浴びている。その成功を追うようにしてオープンしたのが、彼にとって3つめとなるホノルル店だ。


モダニスト・キュイジーヌに馴染みのない客には、この店の$80のコースはどこか異質な体験に感じられるかもしれないが、きっと満足はできるだろう。ハワイの物価水準に合わせて調整された$80というプライスはあくまでも基本料金であり、ついつい手が出てしまう美味しそうなオプションをいろいろ追加していくと、あっという間に$135くらいになってしまうのでご注意を。

スタートは、白米またはキャビアご飯、シルクのように滑らかな胡麻豆腐の味噌汁 からし添え、プリプリのパシフィックノースウェスト産オイスターに千切り野菜を添えた向付けのおしのぎ。ここまでは典型的な懐石料理だ。続く“カクテルコース”では、グラスに入ったスイカのガスパチョと、潰したグリーンオリーブのジュースにアルギン酸ナトリウムと塩化カルシウムを合わせてとろりとした食感を醸し出した自家製オリーブを楽しむ。

前菜は、魚介の刺身盛り合わせ、カニとウニのロワイヤル、トマトとボタンエビのカッペリーニ、トリュフのビシソワーズ、スパニッシュオムレツ、穴子スモークの6つから選べる(大きなグループの場合は、おまかせになる)。クリーミーな舌触りの冷たいヴィシソワーズはトリュフが香しく、穴子は山椒の効いたスモーク味が美味だった。

続くは、冷温前菜“キノア”。液体窒素で瞬間冷凍してから粉末状に削ったキヌアのようなフォアグラに、温かいコンソメ味噌スープをかけて温度差を楽しむという、これぞ分子ガストロノミー。

メインは、尾長鯛のウロコ揚げと梅のスープ、カジキ鮪の味噌幽庵、フォアグラの照焼き、牛タンの赤ワイン煮、和牛ステーキ 醤油と柚子胡椒のソースの6つからひとつ選ぶ。

そして最後に、和風オムライス、泡といっしょに楽しむボロネーズうどん、トリュフカルボナーラ、または明太うどんでお腹が程よく満たされたら、締めのデザートとなる。アイス系のスイーツが3チョイス用意されている。その後別のテーブルに移り、お茶農家である山田家のお茶(ホットまたはアイス)、または麦茶、抹茶でほっこりしてフィナーレとなる。

山田シェフがマギーの訳本を読まれたかどうかは確かでないが、少なくとも彼の専門知識と技術の大部分は実体験から得たものだと確言できる。ゆっくり食の本を読んでいる時間がない読者は、『山田チカラ』に行って実際に体験してみることをお勧めする。学校に行くよりも、ずっとエキサイティングなこと間違いないので。

 

 

 

山田チカラ/Yamada Chikara
 514 Piikoi St., Honolulu
808-592-8500
▶ 営業時間:毎日5:30pm – 9:30pm
▶ 取扱クレジットカード:ビザ、マスターカード、JCB、アメリカンエキスプレス

ショーン・モリス

ショーン・モリス◎ マーケティング会社社長。ハワイ随一のグルメ通として知られている食いしん坊。

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(2018年9月16日掲載)

※このページは「ライトハウス・ハワイ 2018年9月16日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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