日本では高校授業料無償化の法案に自民・公明・維新の会が合意しました。所得制限が撤廃になり、公立高校は2025年4月から完全無償化、私立高校も2026年4月から全家庭に一定額の支援が行き渡ることになります。
これまでは、公立・私立高校とも世帯年収910万円未満の家庭には年間11万8800円の授業料支援が行われていました。この金額は公立高校の授業料相当額であるため、無償化対象の家庭の子どもが公立高校に通う場合は、授業料が全額無料だったのです。一方、世帯年収590万円未満で私立高校に通う場合は、年間最大39万6000円の授業料支援がありました。今回の法改正では、2025年度から910万円の所得制限を撤廃し、公立高校は完全無償化となります。私立高校は2026年度から支援額が45万7000円に引き上げられるとともに、所得制限が撤廃される予定です。けれども日本の高校は授業料以外の出費がアメリカより多く、修学旅行費、教科書代、PTAや生徒会費、通学費(電車の定期券)、制服代(体操服や指定シューズなども含む)などは各家庭が負担することになります。また給食の無償化も進んでおり、現在は東京都が小中学校の給食を無償化していますが、全国的な取り組みは3割の都道府県で
無償化されている程度。けれども2026年度からは全国の小学校の給食が無償となります。
来年から私立高校への支援が引き上げられることで私立校の人気が高まることが予想され、公立校のカリキュラムの見直しや学校再編などが進むことが予想されます。生徒にとっては進学先の選択肢が広がることで、より自分に合った教育環境を選ぶことができるようになるでしょう。日本の子育て世代にとっては喜ばしい変化だと思います。
一方アメリカでは、以前から公立校は高校まで無償。クラブ活動をすると遠征費やユニフォーム代などが発生しますが、全家庭が負担しなければいけない必要経費は日本よりは少ないはずです。給食は安価で、所得によっては無償で提供されています。けれども私立校の学費は年間3万ドル前後と非常に高額で、日本の数倍の学費が必要です。そういう意味では日本より世帯収入による教育格差が大きいといえるでしょう。さらに大学の学費も高額です。州立大学でも年間1万ドルを超え、私立大学や州外の大学の学費は4~5万ドル。ただし学費については、連邦政府のプログラムであるFAFSAに申請すれば世帯収入により減額されるので、教育の門戸はある程度平等に開かれています。また奨学金制度も日本よりは充実しており、返済不要の奨学金を受けることもできます。ただしFAFSAや奨学金については十分な下調べをして、奨学金が受けられそうな大学を複数受験するなど、対策が必要です。
日本では少子化の影響もあり、こうした教育機会の均等化が進んでいますが、アメリカでは公立校は高校まで無償とはいえ、教育格差が依然として大きいです。大学入試では、受験準備に富裕層が有利となる全米共通試験の成績を採用しない大学が増加していて、アメリカならではの均等化は進みつつありますが、一方で課外活動の評価が合否に大きく影響するという現実があります。課外活動で顕著な成績を残すには、小中高を通して親の甚大なサポートが必要です。個人の実力でチャンスをつかみ取るのが常識とされるアメリカでは、子育てにおいても個人差や地域差が大きいです。こうした多様性の大きい社会の中だからこそ、しっかりと個性を伸ばしていくことが必要かと思います。
スピアかずこ
1964年愛媛県生まれ。大阪•京都•オレゴンで学生時代を過ごす。京都女子大学短期大学部卒業。88年ハワイに移住し結婚。ハワイの公立校で教育を受けた長女は現在アメリカ本土で大学院生、次女はハワイ大学へ通う。雑誌やウェブでの執筆活動を精力的に行っている。共著に『ハッピー•グルメ• ハワイ』(双葉社刊)
※このページは「ライトハウス・ハワイ 2025年7月」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。