Q. アメリカ人の夫が離婚訴訟を起こしました。お互い弁護士を雇って、交渉、調停などを行いましたが合意に至らず、最終的に裁判で莫大な弁護士費用も払い2 年近くかかって離婚が成立しました。裁判では、子どもの親権、スケジュール、アリモニー、養育費の金額、財産分与などを争いました。先日、ようやく出た判決内容に納得できません。何をすればよいでしょうか?
A. 家庭裁判所の判決に不服がある場合、ハワイ州高等裁判所(ハワイ州中間上訴裁判所「Hawaii Intermediate Court of Appeals」)に控訴することができます。
しかし控訴するためには、家庭裁判所が事実誤認をした、もしくは法律を間違った形で適用した、などを示す必要があります。控訴をするという通知は通常判決が出てから30 日以内に裁判所でファイルする必要があります。基本的に高等裁判所は家庭裁判所で採用された証拠、家庭裁判所でファイルされた書類、そして双方が提出するブリーフという書面に基づいて、家庭裁判所の決定が正しかったかどうかを判断します。高等裁判所が必要だとみなした場合は、口頭弁論がスケジュールされることもありますが、ほとんどの控訴審は口頭弁論なしで進みます。 さらに、ハワイ州の高等裁判所( ハワイ州中間上訴裁判所「Hawaii Intermediate Court of Appeals」)の決定に不服がある場合は、ハワイ州最高裁判所「Hawaii Supreme Court」に上告をすることができます。
莫大な弁護士費用と時間をかけるより当事者で解決を
家庭裁判所では弁護士を雇わないで離婚訴訟を行う当事者もおり、家庭裁判所は弁護士のいない当事者の扱いにある程度慣れている面があると思います。しかし、控訴審や上告審では裁判所の規則に従ってさまざまな書類を提出する必要があり、弁護士を雇わないで控訴・上告するのは、容易なことではありません。
さらに、ハワイの控訴審は、特別な理由がない限り、ものすごく時間がかかり、判断が下されるまで数年かかることも珍しくありません。ですから、例えば裁判所が決定をしたお子さんと過ごすスケジュールに不服があった場合、控訴をしてその決定が覆されたとしても、それは数年後になっていて、お子さんや親の状況が変わっていることもあり得ます。そのため、再度多額の費用と時間をかけて控訴をする意味があるのかどうかを考える必要があります。
私自身ロースクールを卒業した後、1年間ハワイ州最高裁判所で裁判官の下で働いていたので、法律を厳格に適用して、家庭裁判所での審理を差し戻すというケースをいくつか扱いました。
しかし、実際に家族法の弁護士として仕事をしてみると、何年も前の離婚訴訟を少しの法律のほころびのために差し戻し、やり直しの裁判をさせることが、その当事者家族にとって大変な負担になるということがよくわかります。私が以前所属していた法律事務所で担当した案件で、2012 年に裁判を経て離婚をしたけれども、妻の方が控訴をし、2016 年に高等裁判所から差し戻しになり、2020 年に差し戻しの裁判が終わり決定が出ましたが、今度は夫が控訴をして2024 年まで高等裁判所からの決定が出なかったケースがあります。この当事者は子どももおらず、数年という短い結婚だったので、結婚の長さよりものすごく長い年月裁判所で争い、莫大な弁護士費用を支払っていることになります。離婚を合意のもと解決していれば、このようなことにはなりませんでした。
ご相談者の場合、もう裁判で争っているのでこのアドバイスは当てはまりませんが、このような事例を考えると、家族のことを一番わかっているのは当事者自身なので、可能であれば裁判所に判断を委ねるよりも、話し合いや調停で解決するのが最善と言えます。もちろん相手方が理不尽な主張を曲げない場合、裁判所で争わなければならないこともあります。また、離婚を合意のもと解決するためには、双方がしたくない妥協をする必要があります。しかし、可能であれば家族のことをほぼ知らない家庭裁判所や高等裁判所、最高裁判所に判断を委ねるよりも、家族のことを一番わかっている自分たちで話し合って解決をすることが当事者のためになると考えます。
宮本直子
Naoko Miyamoto Attorney at Law
父親の転勤で高校3 年生よりアメリカ在住。1997年カリフォルニア大学バークレー校政治学部卒業。2000年ハワイ大学マノア校法科大学院(ロースクール)修了。2001年ハワイ州裁判所・ハワイ地区米国連邦裁判所弁護士登録。ハワイ州最高裁判所を経て2001年より離婚やその他の家族法を専門に扱うクライントップ& ルリア法律事務所で家族法専門の弁護士として勤務後、2022年9月に『宮本直子法律事務所』を開設。
宮本直子法律事務所
735 Bishop St, Ste. 310, Honolulu (Dillingham Transportation Bldg.)
TEL 808-444-7890
E-mail: info@miyamotohawaiilaw.com
https://www.miyamotohawaiilaw.com/japanese-page
※実際のアドバイスは個々の状況により異なりますので、詳細は弁護士にご相談ください。
※このページは「ライトハウス・ハワイ 2025年6月」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。