Q. アメリカ人の夫が同僚と不倫し、彼女と結婚をするために離婚を求められています。子どものためと生活のためにも離婚したくありません。13歳の息子には本当のことを知ってほしいので全てを説明しました。しかし、息子の学校のカウンセラーに「そのようなことを子どもに言うべきではない、子どもにも離婚訴訟にも悪影響が出る」と言われました。それは本当でしょうか?
A. 最近は以前よりだいぶ少なくなっている印象を受けますが、ご相談者のように「未成年の子どもを離婚や夫婦間の争いの中に入れることを悪いこと」と認識していない方がたまにいます。ローカルの方でもそのような人はいますが、日本人の方がその割合が高いと感じます。日本での親権の考え方の違いの影響もあると思います。
日本では離婚後に子どもが父親に全く会わない、もしくは会ったとしても月に1 回母親同席のもとで面会をするというようなケースも珍しくないと理解していますが、ハワイでの状況はまったく異なります。裁判所は特別な理由がない限り、離婚後も子どもが双方の親と関係を続けていくのが当たり前で、子どもにとって最善だと考えます。そのような環境では、特に子どもと元配偶者の関係をサポートする姿勢が重要になります。
子どもを一番に考えることが、子どもにも裁判にも好影響に
お子さんのカウンセラーが言うように「子どもを夫婦間の争いの間に入れない、そして相手の悪口を子どもに言わない」ことは、とても大切です。本当のことであっても、大人の事情や争い事を子どもに説明する必要はまったくありません。どんなにひどい夫で、妻としてひどい仕打ちをされていたとしても、子どもに自分の父親が母親にどんなひどいことをしたか、そして母親がどんなに父親を憎んでいるかを伝えるのは、子どもをひどく傷付けることになりますし、何の解決にもなりません。20 年以上ハワイで離婚の弁護士として多くのケースを見てきましたが、ただでさえ両親が離婚をするということでつらい思いをしている中、両親の争いの間に入れられることは、お子さんにものすごく悪い影響を与えると断言できます。また、子どもを両親の争いの間に入れる当事者を、ハワイの裁判所はものすごく嫌がりますし、親権の争いにも悪い影響を与えます。
離婚というような状況になくても、ただでさえ思春期で難しい時期の子どもが、離婚で親の争いの間に入れられて、母親に暴力を振るったり、学校内外で問題行動を起こしたりするケースをいくつか見てきました。
またその逆で、当人にとってはひどい夫であっても、子どもを夫婦間の争いから守ったことによって、子どもは心身ともに健康に育っているというケースもたくさん見てきました。
私がまだ若い頃に担当したケースで、夫がひどいことをして離婚になり、その夫は子どもを50/50 のスケジュールで面倒を見ることは現実的でないとわかっていながら、養育費をできるだけ引き下げるために子どもの親権「physical custody」を裁判直前まで激しく争ったケースがありました。私のクライアントであった妻の方は夫のしたことを許せないと考えていて、親権も争っていましたが、お二人のお子さんには夫の悪口や夫が何をしたかはまったく伝えていませんでした。親権の争いの最中に、お子さんに「お父さんとお母さんはベストカップルなのにどうして離婚をするの」と聞かれたとおっしゃっていて、裁判所でこのように激しく争っていても子どもをその争いからきちんと守ることは可能なのだなと思ったことを憶えています。
私がこれまで担当した日本人のお母さんたちは、お子さんのことを一番に考えていて、お子さんの面倒を見るという面では何の問題もなく、申し分ないという方がほとんどです。このご相談者もきっとそうであろうと考えます。多くの方に、「もし相手方が何か悪い点を指摘するとすれば、子どもと父親の関係をサポートしていないということぐらいであろうから、自分がどんなに相手に嫌悪感を抱いていても、子どもと父親の関係をサポートする姿勢を見せ続けてほしい」とアドバイスしています。
相談者の方にもそのようにお伝えしたいです。
宮本直子
Naoko Miyamoto Attorney at Law
父親の転勤で高校3 年生よりアメリカ在住。1997年カリフォルニア大学バークレー校政治学部卒業。2000年ハワイ大学マノア校法科大学院(ロースクール)修了。2001年ハワイ州裁判所・ハワイ地区米国連邦裁判所弁護士登録。ハワイ州最高裁判所を経て2001年より離婚やその他の家族法を専門に扱うクライントップ& ルリア法律事務所で家族法専門の弁護士として勤務後、2022年9月に『宮本直子法律事務所』を開設。
宮本直子法律事務所
735 Bishop St, Ste. 310, Honolulu (Dillingham Transportation Bldg.)
TEL 808-444-7890
E-mail: info@miyamotohawaiilaw.com
https://www.miyamotohawaiilaw.com/japanese-page
※実際のアドバイスは個々の状況により異なりますので、詳細は弁護士にご相談ください。
※このページは「ライトハウス・ハワイ 2025年5月」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。