Q. 10 年前に結婚したアメリカ人の夫と離婚したいと思っています。夫も同意していますが、離婚が成立するまでハワイから出てはいけないと聞きました。日本に住む両親は高齢で、夏休みに子どもとの里帰りを楽しみにしているのですが…。また、アメリカ人の知人が離婚の訴状のフォームを見て、自動的に一時的接近禁止命令「TRO」が出るのではと言うのですが、本当ですか?
A. ご相談者のように、ときどき日本人のクライアントの方が「離婚成立までハワイから出てはいけないと聞いた」とおっしゃることがあります。 ご相談者ご自身が日本に行ったりハワイから出たりすることに関しては、離婚の手続きを始めた後も何の制約もありません。
しかし、現在ハワイの裁判所で使われている離婚の訴状 「Complaint for Divorce」にはオートマティック・リストレイニング・オーダー「Automatic Restraining Order」という自動禁止命令が付随しており、その禁止命令で禁止されている事項の一つが「未成年の子どもを、子どもが現在住んでいる島から出したり、現在通っている学校を変更したりしてはいけない」というものです。
このため、ご相談者がお子さんを連れて日本やオアフ島の外に行くためには、相手方の同意、もしくは裁判所の許可が必要になります。当事者間の合意は正式な書類を通してなされるべきものです。ご自身が一人で島から出る場合には、この禁止命令は当てはまりません。
反対する正当な理由がないにもかかわらず、お子さんが日本に祖父母に会いに行くことに相手方が同意しない場合は、裁判所で申し立てをして、日本に行く許可を得る必要があります。「必ず子どもをハワイに帰す」ということを示すことができれば、裁判所は通常子どもを島外に出すことを認めます。
離婚訴訟中、自動的に一時的接近禁止命令は出ない
また、ご相談者の知人が言ったように、オートマティック・リストレイニング・オーダー「Automatic Restraining Order」という名称がTRO(Temporary Restraining Order) と呼ばれる一時的接近禁止命令に似ているので、アメリカ人でも実際の書類の内容を読まず、書類の名前だけで、離婚の訴状「Complaint for Divorce」に付随するオートマティック・リストレイニング・オーダー「Automatic Restraining Order」のことをTRO だと勘違いするケースが何回かありました。しかし、オートマティック・リストレイニング・オーダーは、先月号でお話しした身の安全を守るための接近禁止令とは全く異なるものです。
離婚の訴状「Complaint for Divorce」に付随するオートマティック・リストレイニング・オーダー「Automatic Restraining Order」は、先程お話しした、お子さんに関する禁止命令以外は、離婚訴訟中の財産、負債、保険の被保険者や受取人などに関する禁止命令になります。
例えば、オートマティック・リストレイニング・オーダーに基づいて、離婚の最中は双方の当事者が通常の生活費やビジネスにかかる出費、離婚訴訟の弁護士費用の支払い、当事者間で合意があったもの、裁判所で命令があったものを除いて、財産を売ったり、譲ったり、隠したり、処分したりしてはいけないことになっています。また、通常の生活費やビジネスにかかる出費、離婚訴訟の費用、子どもの教育費に使う以外は、お金を借りたり、クレジットカードを使ったりして負債を増やすことも禁止されています。さらに、生命保険や退職金、年金の受取人も、相手方の書面での同意、もしくは裁判所の許可なしで変更してはいけないことになっています。
離婚の訴状「Complaint for Divorce」に付随するオートマティック・リストレイニング・オーダー「Automatic Restraining Order」は、原告「Plaintiff」に対しては訴状をファイルした時点で有効となり、被告「Defendant」に対しては訴状が法的に送達された時点で有効となります。
そして、基本的に離婚が成立するまで、双方がこの禁止令を守らなければいけないことになっています。ですから、内容を正しく理解することが重要になります。
宮本直子
Naoko Miyamoto Attorney at Law
父親の転勤で高校3 年生よりアメリカ在住。1997年カリフォルニア大学バークレー校政治学部卒業。2000年ハワイ大学マノア校法科大学院(ロースクール)修了。2001年ハワイ州裁判所・ハワイ地区米国連邦裁判所弁護士登録。ハワイ州最高裁判所を経て2001年より離婚やその他の家族法を専門に扱うクライントップ& ルリア法律事務所で家族法専門の弁護士として勤務後、2022年9月に『宮本直子法律事務所』を開設。
宮本直子法律事務所
735 Bishop St, Ste. 310, Honolulu (Dillingham Transportation Bldg.)
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E-mail: info@miyamotohawaiilaw.com
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※このページは「ライトハウス・ハワイ 2025年4月」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。