Q. 結婚して10 年になるアメリカ人の夫と離婚したいと思っています。夫は軍勤務、私は専業主婦で、お金は夫が全て管理しており、共同名義の財産や私の名義の財産はありません。夫は、財産は自分が軍で大変な思いをして築き上げたもので、私は専業主婦でこれらの財産に一切貢献しなかったので私は何ももらえないと言います。財産分与の基本的な法律を教えてください
A. ハワイ州での離婚による財産分与の基本的なルールは、結婚の間に築き上げた財産はどちらの名義になっているかに関わらず半々で分けるというものです。そのために、まずは共同名義、そしてそぞれが所有する財産(預金、年金積立金、生命保険、株、証券、自動車、住宅など全て)を5つのカテゴリーに分けます。しかし、婚前契約や結婚後の契約で離婚の財産分与では分けないそれぞれの財産と定められているもの(Marital Separate Property と呼ぶ) や、婚姻中に贈与や相続されたものでその保持にもMarital Separate Property のみが使われた財産は持ち主のものになり、5つのカテゴリーには分類されません。
カテゴリー1:婚前から所有していたもの
カテゴリー2:カテゴリー1の結婚の間に値上がりした分
カテゴリー3:婚姻中に贈与されたもの、相続したもの
カテゴリー4:カテゴリー3の贈与、相続後の値上がり分
カテゴリー5:それ以外の財産
基本的に、裁判所はカテゴリー2、カテゴリー4、そしてカテゴリー5に当てはまる財産は名義に関わらず夫婦二人で半々に分けるとし、カテゴリー1とカテゴリー3にあてはまる財産はその人のものとします。(カテゴリー3に関しては、贈与された財産や相続した財産を結婚の間に生活費や学費などに使ってしまった場合は、使ったお金は戻ってこないという判例があります)。負債に関しても同じルールが適用されます。
この基本的なルールから逸脱する正当な理由があると認められた場合は、裁判所はこのルールと異なる形で財産分与をすることができます。
ご相談者の場合、専業主婦で財産は全て夫の収入から築いたもので、全て夫名義とのことですが、裁判所はそのような場合も、結婚の間に築き上げられた財産を基本的に半々で分配します。裁判所で争えばそのような結果になることがわかっているので、引き下がるべきではありません。
家と年金も5つのカテゴリーに当てはめて計算
家に関しては、ご相談者の夫が結婚前に買ったとのことで、結婚時点での価値(結婚時点での価値からその時点での住宅ローンの残高を差し引いたもの)は夫がもらうことになります。そして、残りの価値(現在の価値から現在の住宅ローンの残高を差し引き、そこから結婚時点での価値を引いたもの)を半々で分けることになります。どちらかが家をキープしたいと考えている場合、相手方が持分を買い取り、さらに現在の住宅ローンを引き継ぐ必要があります。どちらも家を欲しいと思っていない、もしくは相手の持分を買い取ったり、住宅ローンを引き継いだりすることが不可能であれば、家は売却し、売却金を半々で分けることになります。ご相談者の場合、今まで専業主婦だったということで、住宅ローンを引き継ぐことは現実的ではないかも知れません。
また、ご相談者の夫は軍に勤めているとのことで、軍の年金、そしてリタイアメントのアカウント(Thrift Savings Plan と呼ばれるプラン)は、結婚の間に築き上げられた部分の半分をもらうことができます。リタイアメントの分配方法に関しては、来月号で詳しくお話をしますが、ハワイでの離婚の場合、不動産と共に、リタイアメントプラン、年金積立金が財産分与対象の大きな存在になるケースが多いです。特に配偶者が軍や連邦政府、州政府、ユニオンに所属する仕事をしている場合は、年金(pension)があることが多いので、弁護士を雇ってきちんとどのようなリタイアメントプランがあるのか調べて、正しく分割することが大事なポイントになるでしょう。
宮本直子
Naoko Miyamoto Attorney at Law
父親の転勤で高校3 年生よりアメリカ在住。1997年カリフォルニア大学バークレー校政治学部卒業。2000年ハワイ大学マノア校法科大学院(ロースクール)修了。2001年ハワイ州裁判所・ハワイ地区米国連邦裁判所弁護士登録。ハワイ州最高裁判所を経て2001年より離婚やその他の家族法を専門に扱うクライントップ& ルリア法律事務所で家族法専門の弁護士として勤務後、2022年9月に『宮本直子法律事務所』を開設。
宮本直子法律事務所
735 Bishop St, Ste. 310, Honolulu (Dillingham Transportation Bldg.)
TEL 808-444-7890
E-mail: info@miyamotohawaiilaw.com
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※このページは「ライトハウス・ハワイ 2024年8月」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。