Q. アメリカ人の夫との間に小学生の子どもが二人います。私は子どもたちと毎年日本に里帰りしており、彼らは日本が大好きです。離婚した場合、ハワイで生活していくのは難しいので、できれば子どもを連れて日本に帰りたいと考えています。しかしハーグ条約に引っかかって、罪に問われるようなことは避けたいです。私はどのように行動するべきですか?
A. 日本はハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)に加盟していませんでしたが、2014 年4 月1日に発効、実施法も同4 月に施行されました。ハーグ条約に基づいて、日本の裁判所は子どもの返還の申し立てが次の4つに当てはまる場合、子どもの返還を命じなければいけないことになっています。
①子どもが16 歳に達していない
②子どもが日本国内に所在している
③子どもがもともと住んでいた「常居所地国」と呼ばれる国の法律で、子どもの連れ去りや、約束した期限を過ぎても子どもを返さない(留置)ことが申立人の監護権を侵害するものである
④子どもの連れ去りのとき、もしくは留置の開始時に、常居所地国がハーグ条約締約国であった
もし、ご相談者が夫の同意や裁判所の許可なしに子どもを連れて日本に本帰国した場合、常居所地国はアメリカになるので、上の4つの条件を満たすため、子どもの返還が命じられます。また、ハーグ条約は民事上の取り決めですが、アメリカでは他の親権者の同意なく子どもを国外へ連れ出すことが誘拐罪等に問われることもあります。
ですからお子さんと帰国を考えている場合は、相手方と交渉して同意を得るか、裁判所で日本に引っ越すのが子どもにとって最善であることを立証し、許可を得る必要があります。子どもの引っ越しを争う裁判には多額の弁護士費用がかかることが多いです。相手方が同意しているならば、弁護士に相談して同意を裁判所でファイルする合意書の形にしてもらい、双方でサインして、裁判所に提出するのが最善です。
夫の同意を得られない場合は、現在のお子さんたちの状況、双方の当事者の状況などに基づいて、裁判所で争った場合に子どもの引っ越しの許可が出る可能性はどれくらいあるのかを、そのプロセスにかかる費用も踏まえて考えていく必要があります。
ハワイでは離婚訴訟前でも子ども連れ去りは慎重に
離婚後もハワイに住み続ける場合は、離婚判決書「Divorce Decree」の中にお子さんたちと日本へ里帰りすることを明記するのがよいでしょう。先月の記事でご説明したように、子どもに関する決定をする権利、親権「legalcustody」は多くのケースで共同という形を取るので、帰国も通常相手方の同意が必要になります。たまに嫌がらせで日本へ行くことに同意しない相手方がいますが、普通の里帰りであれば裁判所は許可しますし、離婚判決書「Divorce Decree」に里帰りのことが明記されていれば役立ちます。私は今までに多くの日本人の母親のケースを扱っており、たくさんの方が離婚後もお子さんと里帰りをしていますが、今度もありません。
さらに、離婚訴訟が始まった時点で、18 歳未満の子どもを現在住んでいる島から出したり、現在通っている学校から転校させたりしてはいけないという裁判所の命令が出ることも頭に置いておく必要があります。これらの命令がオアフ島の家庭裁判所の離婚の訴状に付随しているからです。離婚訴訟の原告は訴状をファイルした時点、そして被告は訴状が送達された時点で、この命令に従う必要があります。
しかしハワイの裁判所は、日本がハーグ条約に加盟する前に、日本人の母親が子どもを連れて日本に帰り、ハワイに住むアメリカ人の父親が子どもとの関係を完全に断たれてしまったケースを多く見ており、ハーグ条約加盟以降もこの件に関してとてもセンシティブであるといえます。そのような背景から、離婚の訴状がファイルされる前に子どもを連れ去った場合でも、配偶者の同意なしで子どもを日本に連れ去った場合は、ハワイの裁判所は子どもの返還を命じるでしょう。
宮本直子
Naoko Miyamoto Attorney at Law
父親の転勤で高校3 年生よりアメリカ在住。1997年カリフォルニア大学バークレー校政治学部卒業。2000年ハワイ大学マノア校法科大学院(ロースクール)修了。2001年ハワイ州裁判所・ハワイ地区米国連邦裁判所弁護士登録。ハワイ州最高裁判所を経て2001年より離婚やその他の家族法を専門に扱うクライントップ& ルリア法律事務所で家族法専門の弁護士として勤務後、2022年9月に『宮本直子法律事務所』を開設。
宮本直子法律事務所
735 Bishop St, Ste. 310, Honolulu (Dillingham Transportation Bldg.)
TEL 808-444-7890
E-mail: info@miyamotohawaiilaw.com
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※実際のアドバイスは個々の状況により異なりますので、詳細は弁護士にご相談ください。
※このページは「ライトハウス・ハワイ 2024年4月」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。