Q. アメリカ人の夫と結婚して10 年です。夫は軍人で、彼が日本の基地に勤務している時に知り合い、日本で結婚しました。子どもが一人いて、数年前にハワイに引っ越し、現在離婚の話が出ています。夫は日本で離婚届を出そうと言いますが、友人は養育費や軍の年金の分割もあるのでハワイで離婚手続きをするべきと言います。ハワイでの離婚の進め方を教えてください。
A. ご存じのように、日本では双方が合意しているのであれば、離婚届を出すだけで離婚ができます。しかし、アメリカでは合意のある離婚でも裁判所を通す必要があり、離婚の条件の内容を細かく記載した離婚判決書「Divorce Decree」を裁判所に提出することになります。
ハワイの場合、夫婦のどちらかが原告「Plaintiff」となり、離婚申立書「Complaint for Divorce」を裁判所に提出するところから離婚の手続きは始まります。
ハワイは No Fault Divorce といって、離婚をするのに夫婦のどちらに非があったのか、有責なのか、ということは問われません。片方の当事者が離婚を望むのであれば離婚は成立するので、離婚成立自体に関しては争点にならず、離婚の条件のみを交渉、もしくは争うことになります。
離婚条件に合意していても サイン前の細部確認が重要
双方が離婚の条件(親権、子どもと過ごすスケジュール、養育費その他の子どもに関する費用の支払い、アリモニー(扶養料)、財産分与等)に合意している場合、裁判所には出廷せず、書類の提出のみで離婚をすることができます。しかし、さまざまな書類(資産と負債、収入と支出の申告書「Asset and Debt Statement, Income and Expense Statement」、離婚判決書「Divorce Decree」、子どもがいる場合は養育費の計算用紙「 Child Support Guidelines Worksheet」、養育費の天引き命令書「Order to Withhold Incomeなど)を作成し、サインして、裁判所に提出する必要があります。合意のもとに必要な書類を裁判所に提出する形で離婚をする場合、全ての書類を提出してから離婚が成立するまで、オアフ島の家庭裁判所では通常8 週間から10週間かかります。
離婚の条件に当事者お二人で合意をしている場合でも、相手方が作成した離婚の書類にサインする前に、弁護士に相談し、確認してもらうことが大変重要になります。内容がよく分からないまま、もしくは配偶者に言われるままに書類にサインをして、裁判所で離婚判決書「Divorce Decree」が受理された後、私のところに来られる方がたまにいらっしゃいますが、受理された離婚判決書「Divorce Decree」を覆すのは通常容易ではありません。内容がよく分からない場合はもちろん、理解できていると思われる場合でも、一度弁護士に目を通してもらってから、サインをするべきです。
双方が離婚の条件に合意していない場合は、離婚申立書「Complaint for Divorce」が送達された後、被告「Defendant」が20 日以内に返答「Answer to Complaint for Divorce」を裁判所でファイルすることが大変重要になります。これをしない場合は、欠席判決「default」という形で、原告の要求通りの判決が下ることになっています。
条件に合意がない場合は、当事者同士、もしくは弁護士を通しての話し合い、交渉を行い、それでも解決しない場合は、調停をします。そして調停でも解決できない場合は、裁判所の介入を求めることになります。裁判所の介入が必要な場合は、解決までに1年以上かかることもあります。また、裁判所の介入が必要な場合は時間がかかるだけではなく、莫大な弁護士費用がかかってしまうことになります。ですから多くのケースは、双方が譲歩する形で裁判を避けて、解決に至ることになります。
何も分ける財産はなく、お子さんもいないというのであれば、日本で離婚届を出すという形で離婚をすることも考えられなくはありません。しかし、ご相談者の場合は、ご友人がおっしゃるように、お子さんの養育費や軍の年金の分割など、ハワイでの離婚の手続きを通してきちんとするべきだと考えます。
宮本直子
Naoko Miyamoto Attorney at Law
父親の転勤で高校3 年生よりアメリカ在住。1997年カリフォルニア大学バークレー校政治学部卒業。2000年ハワイ大学マノア校法科大学院(ロースクール)修了。2001年ハワイ州裁判所・ハワイ地区米国連邦裁判所弁護士登録。ハワイ州最高裁判所を経て2001年より離婚やその他の家族法を専門に扱うクライントップ& ルリア法律事務所で家族法専門の弁護士として勤務後、2022年9月に『宮本直子法律事務所』を開設。
宮本直子法律事務所
735 Bishop St, Ste. 310, Honolulu (Dillingham Transportation Bldg.)
TEL 808-444-7890
E-mail: info@miyamotohawaiilaw.com
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※このページは「ライトハウス・ハワイ 2024年1月」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。