Q. アメリカ人の夫が不倫相手と結婚するため離婚訴訟を起こしました。私は子どもと生活のためにも離婚したくありません。子どもは10 歳の男の子で父親が好きで離婚に反対しています。彼に真実を知ってほしいので、離婚原因と私は離婚したくない旨を話したところ、子どもの学校のカウンセラーに子どもに言うべきではない、子どもと離婚訴訟にも悪影響だと言われました。
A. ご相談者のように子どもを離婚や夫婦間の争いの間に入れるのは良くないと認識していない方がいます。ハワイは日本と違い、裁判所は特別な理由がない限り、離婚後も子どもが双方の親と関係を続けるのが当然で子どもにとって最善だと考えます。そのような環境では特に子どもと元配偶者の関係をサポートする姿勢であることが重要になります。
ご相談者のお子さんのカウンセラーが言うように、子どもを夫婦間の争いの間に入れない、そして相手の悪口を子どもに言わないというのは、とても大切なことです。大人の事情や争いを子どもに説明する必要は全くありません。どんなにひどい夫で妻としてひどい仕打ちをされたとしても、子どもに自分の父親が母親にどんなひどいことをしたか、そして母親がどんなに父親を憎んでいるかを伝えるのは子どもを傷付けることになりますし、何の解決にもなりません。
20 年以上ハワイで離婚の弁護士として多くのケースを見てきましたが、ただでさえ両親の離婚というつらい思いをしている中、両親の争いの間に入れられることは子どもに悪影響を与えると断言できます。また、裁判所もそれを嫌がり、親権の争いにも影響します。
夫婦間の争いから子どもを守ることが親子にとって大切
私のこれまでの経験をいくつかお話ししますと、両親がそろっていても思春期の子どもが親の争いの間に入れられ、母親に暴力を振るったり、学校内外で問題行動を起こしたりするケースを見てきました。
その逆で、ひどい夫でも、子どもを夫婦間の争いから守ったことによって、心身ともに健康に育つケースも数多くありました。その一つは、裁判所が子どもの安全を守るために、父と子は第三者の監視下でのみ面会できるというものでした。一時的な監視下の面会はありますが、それが何年も続くほど、父親が裁判所から見てもまともではない極端な状況でした。それでも母親は子どもに父親がしたことを全く伝えませんでした。「子どもを悲しませたくないからだ」とおっしゃっていました。離婚当時は小さかったそのお子さんも高校生になり、父親が普通ではないことを理解できるようになっていますが、親の争いから守られて、スポーツや学業でも優秀なお母さん思いの素晴らしい人に育っているという印象を受けました。
その他に、私がまだ若い頃に担当したケースで、夫がひどいことをして離婚になり、その夫は子どもを自分が50/50 のスケジュールで面倒を見ることは現実的でないとわかっていながら、養育費をできるだけ引き下げるために子どもの親権「physical custody」を裁判直前まで激しく争ったケースがありました。私のクライアントであった女性(妻)は夫のしたことを許せないと考えていて、親権も争っていましたが、二人の子どもには夫の悪口や夫が何をしたかは全く伝えませんでした。親権の争いの最中に、お子さんに、「お父さんとお母さんはベストカップルなのにどうして離婚をするの?」と聞かれたとおっしゃっていました。裁判所でこのように激しく争っていても、子どもをその争いからきちんと守ることは可能なのだなと思ったことを憶えています。
これまで私が担当させていただいた日本人のお母さんは、お子さんのことを一番に考えていて、お子さんの面倒を見るという面では何の問題もなく、申し分ないという方がほとんどです。このご相談者もきっとそうであろうと考えます。多くの方に、「もし相手方がこちらの悪い点を指摘するとすれば、子どもと父親の関係をサポートしていないということぐらいであろうから、自分がどんなに相手に嫌悪感を抱いていても、子どもと父親の関係をサポートする姿勢を見せ続けてほしい」とアドバイスしています。ご相談者にもそのようにお伝えしたいです。
宮本直子
Naoko Miyamoto Attorney at Law
父親の転勤で高校3 年生よりアメリカ在住。1997年カリフォルニア大学バークレー校政治学部卒業。2000年ハワイ大学マノア校法科大学院(ロースクール)修了。2001年ハワイ州裁判所・ハワイ地区米国連邦裁判所弁護士登録。ハワイ州最高裁判所を経て2001年より離婚やその他の家族法を専門に扱うクライントップ& ルリア法律事務所で家族法専門の弁護士として勤務後、2022年9月に『宮本直子法律事務所』を開設。
宮本直子法律事務所
735 Bishop St, Ste. 310, Honolulu (Dillingham Transportation Bldg.)
TEL 808-444-7890
E-mail: info@miyamotohawaiilaw.com
https://www.miyamotohawaiilaw.com/japanese-page
※実際のアドバイスは個々の状況により異なりますので、詳細は弁護士にご相談ください。
※このページは「ライトハウス・ハワイ 2023年10月」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。