日本では自民党の女性新総裁誕生と今後の総裁選に向け、政治への関心が高まっています。ですが、日本の投票率は若年層で低く、20代の投票率は約30%。それに比べ、アメリカの同世代の投票率は約50%と、若者の政治参加には大きな差があるようです。その理由の一つに、アメリカで広く行われている市民教育(シチズンシップ教育)が挙げられています。市民教育を通して選挙への参加を啓蒙するだけでなく、困っている人に積極的に手を差し伸べたり、ボランティア活動へ参加したりすることへの興味を促しています。さらには市民意識の向上が就業意欲の低下や社会的無力感の改善にも影響を与えると考えられています。
ハワイの公立校での市民教育の取り組みについては、ハワイ州教育局主導で、高校生レベルで次のように進められています。
①PACE委員会の設立
州最高裁判所が設立した市民教育推進委員会(PACE)が学生と一般市民のための市民教育を推進しています。カリキュラムには、アメリカ合衆国憲法の原則への理解を深める活動と共に、ハワイの歴史と文化的価値の理解が取り入れられています。
②必修科目
他の多くの州と同様、ハワイ州も学生に市民教育の履修を義務付けています。高校で政府とアメリカ合衆国憲法に関する1学期間の学習が必須科目になっています。
③デモクラシー・スクール・プログラム
PACEと州教育局が支援するこのプログラムは、市民教育に熱心に取り組んでいる高校を表彰するものです。受賞校はクリティカルシンキング(批判的思考)、地域社会への参加、そしてアロハ・スピリット法*の理解を育む多様な学習経験を提供しています。
*ハワイの伝統的な哲学である「アロハ」を定義し法典化した州法。
1986年に制定され、法的な強制力は持ちませんが、州の公務員や裁判官に対し、職務を遂行する際に「アロハ・スピリット」を考慮に入れるよう指示しています。
さらに2024年には、教育者と地域関係者をつなぎ、市民参加と地域サービスを促進する目的で太平洋教育同盟(PEACE)が設立されました。今年は州下院法案763が提出され、公立学校に市民教育の専任教員を雇用するための資金を増やすことが提案されています。
また、各種団体が主催する体験型のプログラムも充実しています。代表的なものをいくつかご紹介します。
①模擬裁判プログラム
ハワイ州弁護士会などの団体が運営し、ボランティアの弁護士のコーチングを受けながら、学生が最初から最後まで事件を扱います。
②議会でのインターンシップ
州教育局と州議会の連携により、高校生は議員に同行し、政策立案のプロセスについて学ぶ実践的な経験を得ることができます。
③アウトリーチプログラム
ハワイ州最高裁判所が高校を訪問し、実際の事件の口頭弁論を傍聴させます。このアウトリーチプログラムは、カメハメハ5世司法歴史センターが開発したカリキュラムを使用し、学生が司法制度と上訴手続きについて学ぶ機会を提供しています。
④プロジェクト・シチズン
カメハメハ5世司法歴史センターが運営しているプログラムで、学生がコミュニティの問題を特定し、関連する公共政策を調査し、解決策を提案しています。
こうした市民教育を受ける若い世代が、ハワイをより住みやすい社会に発展させてくれることを期待したいと思います。

スピアかずこ
1964年愛媛県生まれ。大阪•京都•オレゴンで学生時代を過ごす。京都女子大学短期大学部卒業。88年ハワイに移住し結婚。ハワイの公立校で教育を受けた長女は現在アメリカ本土で大学院生、次女はハワイ大学へ通う。雑誌やウェブでの執筆活動を精力的に行っている。共著に『ハッピー•グルメ• ハワイ』(双葉社刊)
※このページは「ライトハウス・ハワイ 2025年11月」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。