Q. 数年前にアメリカ人との結婚を機にハワイに移住しましたが、夫との関係がうまくいっておらず、離婚を考え始めました。ハワイで離婚する場合、裁判所に行かなければならないと聞きましたが、どのように進めていくのでしょうか? 子どもは二人います。夫にはまだ話していませんが、おそらく夫は離婚したくないと思います。離婚の条件などもあるのでしょうか?
A. 日本では双方が合意していれば、離婚届を出すだけで離婚ができますが、アメリカでは合意のある離婚でも裁判所を通す必要があり、離婚の条件の内容を細かく記載した離婚判決書「Divorce Decree」を裁判所に提出することになります。
ハワイの場合、夫婦のどちらかが原告「Plaintiff」となり、離婚申立書「Complaint for Divorce」を裁判所に提出するところから離婚の手続きは始まります。ハワイは No Fault Divorce といって、夫婦のどちらに非があったのか、有責なのか、ということは問われません。片方の当事者が離婚を望むのであれば離婚は成立するので、離婚成立自体に関しては条件というものはありません。離婚の争点のみを交渉、もしくは裁判所に判断、決定してもらうことになります。ですから、ご相談者の夫が離婚したくないとしても、離婚をすることは可能で、離婚の争点のみを交渉していくことになります。
進め方は、争点への合意や子どもの有無などにより異なる
離婚の争点には、親権、子どもと過ごすスケジュール、養育費その他の子どもに関する費用の支払い、アリモニー(扶養料)、財産分与等があります。双方がこれらに合意している場合、裁判所には出廷せず、書類の提出のみで離婚ができます。しかし、さまざまな書類(資産と負債、収入と支出の申告書「Asset and Debt Statement, Income and Expense Statement」、離婚判決書「Divorce Decree」、子どもの養育費の計算用紙「Child Support Guidelines Workshee」、養育費の天引き命令書「Order to Withhold Income」など)を作成し、サインして、裁判所に提出する必要があります。この場合、すべての書類を提出してから離婚成立まで、オアフ島の家庭裁判所では通常8 週間から10 週間、隣島の家庭裁判所ではもっと短期間で書類が受理されます。
なお、合意している場合でも、相手方が作成した離婚の書類にサインする前に、弁護士に相談し、確認してもらうことが大変重要です。内容がよく分からないまま、もしくは配偶者に言われるままに書類にサインして、裁判所で離婚判決書「Divorce Decree」が受理された後、私のところに来られる方がいらっしゃいますが、受理された離婚判決書「Divorce Decree」を覆すのは通常容易ではありません。内容がよく分からない場合はもちろん、理解できていると思われる場合でも、一度弁護士に目を通してもらってから、サインをするべきです。
お子さんがいない夫婦で合意に至って離婚する場合、書類の提出のみで裁判所に全く行くことなく離婚が成立します。未成年のお子さんがいる夫婦の離婚は、キッズファーストという離婚に関して学ぶプログラムに、両親、それから6 歳から17 歳の子どもが出席することが義務付けられています。オアフ島では現在キッズファーストプログラムは水曜日の夜にカポレイの家庭裁判所とダウンタウンの裁判所で開催されているので、出廷とは異なりますが、プログラムに出席するために一度裁判所に行くことになります。
一方、合意がない場合は、離婚申立書「Complaint for Divorce」の送達後、被告「Defendant」が20 日以内に返答「Answer to Complaint for Divorce」を裁判所でファイルすることが大変重要になります。これをしないと、欠席判決「default」という形で、原告の要求通りの判決が下ることになります。
離婚の争点に合意がない場合は、当事者同士、もしくは弁護士を通しての話し合いや交渉を行い、それでも解決しない場合は、調停をし、そして調停でも解決できない場合は裁判所の介入を求めることになります。裁判所の介入が必要な場合は、解決までに1年以上かかることもあります。そして、多額の弁護士費用がかかってしまうことになります。ですから多くのケースは、双方が譲歩する形で裁判を避けて、解決に至ることになります。
宮本直子
Naoko Miyamoto Attorney at Law
父親の転勤で高校3 年生よりアメリカ在住。1997年カリフォルニア大学バークレー校政治学部卒業。2000年ハワイ大学マノア校法科大学院(ロースクール)修了。2001年ハワイ州裁判所・ハワイ地区米国連邦裁判所弁護士登録。ハワイ州最高裁判所を経て2001年より離婚やその他の家族法を専門に扱うクライントップ& ルリア法律事務所で家族法専門の弁護士として勤務後、2022年9月に『宮本直子法律事務所』を開設。
宮本直子法律事務所
735 Bishop St, Ste. 310, Honolulu (Dillingham Transportation Bldg.)
TEL 808-444-7890
E-mail: info@miyamotohawaiilaw.com
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※このページは「ライトハウス・ハワイ 2025年8月」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。