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ホクレア日本人初クルー / 内野加奈子 さん

「自然と深く関わるきっかけづくりをしていきたい」

うちの・かなこ●ハワイ大学で海洋学を学び、ハワイ州立海洋研究所でサンゴ礁生態の研究にも従事。自然と人の関わりをテーマに執筆を手掛けるかたわら、日米の教育機関と自然をベースにした学びの場づくりに取り組む。慶應義塾大学SFC卒。土佐山アカデミー理事。
著書に『 ホクレア 星が教えてくれる道』(小学館)や
海の絵本 シリーズ『星と海と旅するカヌー』(きみどり工房)他。 

「マラマホヌア(地球をいたわる)」を掲げ、自然の力だけを使う伝統航海術で世界の海を回るホクレアが、今年3月、誕生から50周年を迎えた。2000年にホクレアクルーとなり、07年には日本人初のクルーとして日本航海に参加した内野加奈子さんに人と自然のあり方を聞いた。

ーホクレアとの出会い、クルーになった経緯を教えてください。

 ホクレアを知ったのは海洋学を学べる大学を探していた時でした。これほどまでに深い海の文化がある場所で勉強したいと思い、ハワイ大学へ入学しました。そして、伝統航海に強く惹かれ、学びたいという気持ちでホクレアを訪ねたのが、クルーになったきっかけです。

ーホクレアを通して、どんなことを学び、どんな気付きを得ましたか?

 幸運なことに、私は伝統航海術をハワイに伝授したマウ・ピアイルグ氏に師事することができました。彼自身が自然そのもので、五感を100%使いこなし、人間の深い可能性を体現している人でした。人間はここまで自然の一部になれるのかと心を打たれ、人と自然のあり方を、私も学びながら伝えていきたいと思うようになりました。 知るほどに奥深い自然を、多くの人に知ってもらうためのツールとして、写真を勉強し、水中撮影も行いました。

2007年に、日本人初のクルーとして日本航海をされました。そのときの気持ちをお聞かせください。

 当時、クルーはほとんどハワイ出身で私だけが外国人でした。キャプテンのブルース・ブランケンフェルド氏に「日本人がクルーに入ってよいのか」と尋ねたところ、「あなたがいることでハワイ文化が世界に広がっているというシンボルになる」と背中を押してくれました。日本へ向けた航海では、日本とハワイの橋渡しをすることが大きな役割の一つでした。日本の皆さんは、ホクレアを迎え入れ、自分たちの文化を見直すきっかけにもしてくださいました。

ホクレアがまったく違う文化圏に届き、文化が共鳴し合いました。このことが、後の世界航海につながるきっかけになりました。

世界航海でホクレアはどんなことを伝えたのでしょうか?

 ホクレアのミッションは「マラマホヌア(地球をいたわる)」です。「地球」と捉えるとあまりにも大きなことのように感じますが、私たちはまずカヌーという「ホーム」で、それを意識しています。1人ずつが暮らしの中で自分のホームをより気持ちの良い場所にしていくという心掛けが広がると、大きな力になります。ホクレアは、各寄港地で「皆さんもホームをいたわっていますか?」と問い掛けています。

そのミッションを掲げて、ホクレアは 25 万海里以上を航海し、今年3月8日に50周年を迎えました。内野さんも『ホクレア50周年誕生祭』に参列されていましたね。50年を迎えてどんなことを思いましたか?

 ホクレアを支えてきた数え切れない人々に思いをはせる時間でした。私たちを伝統航海の世界へと導いてくれた師のマウ・ピアイルグ、そして彼の伝統航海を支えた遥か古からの英知。50年という時間の前に、数百、数千年という伝統航海の歴史があること。それを支えてきた数限りない師たちの存在を感じました。また今回の50周年に際して、タヒチ、クック諸島、アオテアロア(NZ)、ラパヌイ(イースター島)、そしてアラスカや台湾など、太平洋中から人々が集い、太平洋を「ホーム」とする人々の強い絆を感じました。太平洋のあちこちに家族と慕う仲間が広がっていることを本当に幸せに感じます。

2023年にホクレアは太平洋を一巡する環太平洋航海「モアナヌイアケア航海」へ出航し、今も航海は続いています。この航海はどのようなことをテーマに掲げていますか?  

 今回のテーマは「大いなる海」です。海は地球の仕組みそのものを作っているかけがえのない存在です。地球全体の気温を調整し、大気の組成を整え、雨となって水をもたらし、私たちの命を根底で支えてくれています。海、そして地球そのものが、生命あふれる豊かな場所であり続けるために、私たちは今何ができるのかを共に考え、行動していくことが、大きなテーマです。世界各地では、すでに素晴らしい取り組みが数多く行われています。それらをつなぎ、さらに大きな流れへと広げていくのが、ホクレアの役割だと感じています。

 今年は、ハワイからタヒチ、そこから南太平洋諸島を巡って、アオテアロアを目指します。

ー内野さんは子どもたちにもっと海のことを知ってほしいと、絵本を作ったり、読み聞かせをしたり、海の学校を始めたり、教育にも力を入れて来られました。今回の航海で日本へ寄港しますが、日本の若い世代にホクレアを通して何を伝えたいと考えていますか?

 まずは、自然はこんなに楽しい場所だと知ることが大切な教育になると思っています。私自身が伝統航海を通じて、自然は知れば知るほどおもしろく、奥深い世界が広がっていることを体感してきました。すぐそこにある自然について何か一つを知ると、その先にさらに楽しい驚きが待っています。その最初のきっかけを作るため、自然のおもしろさを直接伝えたいと思います。それが海に対してできることを考える一歩になると信じています。

ショップ博物館で行われたホクレア50周年のイベント。ナホク賞受賞チェロイストのJoshua Nakazawa とコラボして実施した、絵本『星と海と旅するカヌー』の朗読会が
大盛況でした

 インタビュー:ライトハウスハワイ編集長 大澤陽子

このページは「ライトハウス・ハワイ」 2025年5月号掲載の記事を基に作成しています。

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