なんか暗い話題だが、実は僕は死を恐れていない。おそらくその理由は、人は死後、家族や友だちなど生前に愛していた人たちやペットさえにも再会できるという教えを信じているからかもしれない(実際に動物も天国あるいは地獄に行くのかどうかは確かでないし、僕自身最終的にどこに収まるのかもわからないが)。それとも単に、いつだったかお葬式に参列した際に牧師さんから聞いた“お亡くなりになった方は、今は天国で飲めよ食えよの大宴会を楽しんでいらっしゃいますよ”みたいな話に、励まされているのかもしれない。僕のような食道楽にとって、そんなうれしい話はない。しかし、もしそれが本当なら、そして動物たちも天国に行けるとしたら、一体全体みんなはそこで何を食べているのだろう?ステーキとかロブスターというわけにはいかない。それでは牛や魚たちにとって、天国は天国でなくなってしまう。
突然来るかゆっくり訪れてくるかはわからないが、土に帰るその日に備えて準備をしておくことは確かに大事だ。しかし、生前にできる最善のことのひとつは、生きている人たちとの時間を楽しむことだと僕は思う。死んでからもこの世の人たちといっしょに過ごせるかどうかはわからないし、たとえそれが可能だとしても、おそらく向こうは僕の存在に気付いてはくれないだろう。
最近オープンしたポチャ(韓国の居酒屋)『チング』は、家族や友だちといっしょに楽しめる店のひとつだ。店名は、韓国語で“友だち”を意味する。韓国の人たちは、家族や友だちが集まるとよく飲んで食べて楽しむが、この店はそのコンセプトを採用している。メニューは、ソウルソーセージカンパニー設立者のひとりであり、またフードネットワークチャンネルにレギュラー出演しているロサンゼルスを拠点に活躍するシェフ、クリス・オー氏がプロデュース。結構意表を突くものもあって、コリアタウンが鳴り物入りでホノルルのダイニングシーンに登場した、と言ってもいいかもしれない。
たとえば、韓国で人気のスイカのソジュ。酒豪でさえもうっかり足元がふらつきそうになるジューシーなお酒だが、この店のはパチパチ弾けるポップロックスなんかがトッピングされていて、インスタ映えするだけでなく、派手なLAスタイルのプレゼンにその場のテンションもきっと上がるはず。
メニューには、ほっとさせられる馴染みのあるアイテムから、ちょっと頭を傾げたくなる奇想天外なものまで含まれる。コンフォート系では、トッポッキ(お餅、うどん、目玉焼き、さつま揚げ)、48時間漬け込んだカルビ、スパム入りキムチチャーハンなど。そして変わりメニューには、チップス・アンド・ディップ、ハニーバター・シュリンプ、ボーンマロー・コーン・チーズなどがある。チップス&ディップは、僕と連れの友だちには、サワークリーム、イクラ、蜂蜜グレーズのコンビネーションが微妙で、おまけにそれに揚げたてシュリンプチップスをつけるとなんとも言えない匂いがして、どうも好きにはなれなかった。しかし担当のウェイトレスさんによると、これは人によって好き嫌いマチマチだが、一旦慣れてしまうと味がわかるようになるそうだ。
揚げたハニーバターシュリンプについては意見が分かれたが、僕個人的にはバターガーリックにハチミツ味が甘ったるく感じられた。ボーンマロー・コーン・チーズは、半分に縦割りにした脛骨が鍋から突き出た盛り付けがなかなかのインパクト。香ばしいバタースコッチ味が美味しくて食べやすい一方で、その大胆な風味にボーンマロー自体の味が陰に潜んでしまったのが残念だった。
12時間かけてゆっくり煮込んだオックステイルをご飯にのせたカルビチムや、色とりどりの魚卵をご飯の上にアレンジしたKタウン・ポケボウルなど、ひとひねり加えた伝統料理もいくつかある。コリアンバーベキューソースで焼いた巨大なマグロのカマを食べやすい大きさに切ってお皿に山高く盛り上げたツナ・トマホークは圧巻だった。
概して、斬新な解釈とプレゼンテーションがこの店での食事を楽しい体験にしてくれた。だから、確かに友だちや家族とワイワイ楽しめる店だ。遺言の準備や葬儀プランはちょっと横に置いておいて、人生を精一杯生きること、そして大切な人たちとのいつまでも心に残る思い出作りに励むのがやっぱり一番!
◎ マーケティング会社社長。ハワイ随一のグルメ通として知られている食いしん坊。
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(2018年5月1日掲載)
※このページは「ライトハウス・ハワイ 2018年5月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。