獣医師としてハワイで働こうと思ったのは、ボストンにある大学の獣医学部を卒業する2年前のことでした。彼女とその家族と一緒にハワイへ旅行に来て、空港に降り立った瞬間、彼女が「私はここにいるべきだと思う」とつぶやいたのです。二人にとって初めてのハワイでしたが、11歳から6年間アメリカで過ごした自分にとっても、ハワイは文化も社会環境も良く、ハワイに暮らそうと決めました。
卒業後、彼女と結婚してハワイに引っ越しました。ボストンと比べてアジア人が多くて、住みやすく、良いことばかりでした。
勤務する動物病院を決めていたのですぐに仕事も始めました。
獣医師になることは、中学生のときから決めていました。ジョージア州にあるアメリカ最大とされる水族館に行って、ジンベイザメを見て感動したのがきっかけでした。動物の偉大さと、人間の小ささのようなものを感じ、帰り道に「将来、ジンベイザメにエサをあげるような仕事をしたい」と父に話したら、父が獣医師という職業を教えてくれたのです。調べてみると、これこそ自分がやりたい仕事だと思い、獣医師を目指して高校、大学、大学院へと進みました。
獣医師になってからは、現場での経験を重ねながら獣医学で学んだ膨大な知識を、良い意味で削ぎ落としながら磨いてきました。医療的なことはもちろんですが、飼い主さんの問題を解決する手助けにも重点を置いています。オンラインで調べた間違った情報を信じている方も多いので、それぞれのペットに合った正確な情報を伝えるなどして安心してもらうことが大切だと思っています。幸い英語と日本語を使えるので言語に関係なく、少しでも多くの飼い主さんとできる限りのコミュニケーションをとってきました。
そんな中、ご縁があって、『アイナハイナ・ベタリナリー・クリニック(アイナハイナ動物病院)』の共同オーナーとなり、この2月にアイナハイナショッピングセンター内に当院を開業したところです。ハワイは日本人飼い主さんも多いので、わかりやすく日本語で説明することの重要性も実感しています。
今後、目指すことの一つは、動物病院業界で獣医師が抱える問題を解決することです。獣医師やスタッフの労働環境の改善は、良い医療を提供するためにも必須です。自分も経験したことですが、獣医師も動物看護師も動物たちの命を守ることに全力を尽くしますから、急患や緊急事態など状況によっては、時間通りに勤務は終わりません。それにより心身共にしきってしまう獣医師も少なくないのが現状です。また、飼い主さんの判断を含め、限られた条件の中で医療行為をせざるを得ない場合もある中で、結果的に責められることもあります。かつてのクラスメイトが命を絶ったこともあり、スタッフを守る経営者になりたいと考えています。
アイナハイナ動物病院は、すばらしいスタッフが集まっています。チームで切磋琢磨しながら、ペットと飼い主さんを守り、獣医師やスタッフ全員が心から幸せになる病院にしたいと思います。それをハワイに限らず、日本にも広げていけたら嬉しいですね。
飼い主さんが得る情報、知識、その選択は、全て重要で重大です。責任を持って正しい情報に基づいて、わんちゃんやねこちゃんたちペットが健康で幸せに暮らせる環境を整えてあげてくださいね
さかもと・まこと◎大阪府出身。家族の都合で小学5年生から6年間をアメリカ・イリノイ州とジョージア州で過ごして帰国。マサチューセッツ州タフツ大学入学、さらに獣医学大学へ進学し、獣医師の資格D.V.M.を取得。ハワイに引っ越した後、ウィンドワードエリア、ハワイカイなどの動物病院に勤務。2023年2月、三人の獣医師で共同オーナーとなって『アイナハイナ・ベタリナリー・クリニック』を開業。家族は妻、娘二人、犬一匹。
※このページは「ライトハウス・ハワイ 2023年4月」号掲載の情報を基に作成しています。