マーケティング・PR畑で働いて早20年を超える。そんな僕が、最近、立て続けにカルチャーショックを体験をしてしまった。まず、プロジェクトベースで契約している日本のクライアントの店のグランドオープニングイベントの企画をしていたときのことだ。企画にかかわったほぼすべてのロコたちが、僕が送った簡潔かつ極めて重要なEメールに1週間経っても返信してくれず、追いかけ回さなければならないハメになったのだ。“ハワイアンタイム”の本当の意味を身に染みて知らされた。
イライラしながら僕は、自分がいかに時間絶対厳守が当たり前の国の人たちと仕事をすることに慣れてしまい、ローカルの人たちと働くことがどういうものなのかということをすっかり忘れていたことを悟った。皮肉なのは、ロコボーイの僕が、自分と同じロコたちの呆れ返るほどスローなペースにカルチャーショックを受けたということだ。また別の日には、日本人の知り合いを見送る際、僕は妻まで巻き添えにして、彼らが乗ったタクシーが見えなくなるまでその場にじっと立って手を振った。タイミング悪く信号が赤に変わってしまい車は停止。僕らはきまり悪さを隠しながら、青信号を待つ間もひたすら手を振り続けた。そうだ確かに僕はロコよりも日本人になってしまっている。
最近、地元の酒場『リサズ・ハウス』に行ったのだが、ここでもカルチャーショックを受けてしまった。店内は“ロコの中のロコ”みたいな客たちで賑わい、なんか随分場違いなところに来てしまったようで気が引けた。折りたたみ式のテーブルと椅子が置かれただだっ広いスペースは、パーティ会場をにわか仕立てでバーにしたみたいに見える。そして、電子ダーツボードとビリヤード台のまわりには、ビルヤード場やゲームセンター以外にも未だ存在していたとはまったく知らなかったサブカル系の人たちがたむろしていた。
さてメニューはというと、これが一瞬圧倒されるほど豊富な品揃えなのだ。ロコ御用達の店だけあって、値段のわりにボリュームも結構ある。シェアして楽しむププスタイルが主流で、たとえば、ハワイアンスタイル、スパイシーコリアンアヒ、豆腐などぜんぶで6種類揃ったポケや、ポケ天ぷら、ガーリックバタークラム、シーフードスタッフドサーモン、新鮮なアヒのお刺身などのシーフード料理が並ぶ。
肉食系には、ディープフライドポークチョップ、ジンジャーペストステーキ、キムチステーキ(キムチを塗って焼き上げたステーキ)。2タイプのバッファローウィング、スパイシーコリアンチキンウィング、クリスピージンジャーペストウィング、スイート&スモーキーウィング、ランチフライドウィング、ガーリックパルメザンウィング、スパイシークリスピーウィングの計8種類揃ったフライドチキンは、あまりの選択肢の多さに迷ってしまう。ププスには、ホットクラブ&クラムディップ、テイタートッツケソナチョス、バーベキュービーフとフライドヌードルのコンボプレート、チージーガーリックブレッド、ガーリッキーな唐辛子と胡麻油和え枝豆、生姜の冷奴、ベジタブルプラッター、ポータベラマッシュルームフライ、2・3種類のフレンチフライなどもある。スペシャルメニューは、プレフショートリブ、ポークチョップロコモコ、ダブルスタックキムチテリバーガー、グリルドカルビプレート、グリルドガーリックアヒだったが、内容はときどき変わるらしい。
この店のコンフォートフードは、正直なところ超いけた。お洒落なビストロや贅沢なワインメーカーのディナーに耽って、僕は自分の本来のアイデンティティーを忘れてしまっていたことに気付いた。どの料理もシンプルで素直。ほっこりした気分にさせてくれる。幼い頃食べ親しんだ懐かしの味に、僕は忘れてしまっていた自分のローカルルーツを再認識し、まるで初めてのハワイでハワイにすっかり恋してしまった日本人旅行者みたいにウキウキした気持ちになった。眠っていたロコを目覚めさせてくれたこの店に、僕はまたきっと行くだろう。とはいえ、ショートパンツにビーサン姿に戻ることはまずないし、時間にルーズになるとも思えない。ただ、こんな美味しいものをたらふく食べたら、睡魔に襲われてボーッとしてしまうのは避けられないだろう。
◎ マーケティング会社社長。ハワイ随一のグルメ通として知られている食いしん坊。
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(2017年11月16日掲載)
※このページは「ライトハウス・ハワイ 2017年11月16日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。