同じ人種でも、世界中のどこに住んでいるかで見た目が変わってくるのは奇妙なことだ。例えば、日本の日本人はハワイ育ちの日系三世と明らかに違う。その理由は服装かもしれないし、振る舞いであるかもしれないが、僕はだた顔を見ただけで、日本から来た日本人かロコ日本人かわかると宣言できる。その原因は、絶対に食習慣の違いにあると思う。アメリカ人はどこか威張った感じで歩くことにもその理由があるかもしれない。人間は皆まったく同じであって、しかも違うのだ。それはいいことだと思う。なぜなら、そういう順応性がライフスタイルや、特に食に多様性を生み出すことになった。
ハワイの移民たちの子孫たちは、独特のハイブリッドフードを創り出した。そしてそれにより、さらに多くのアジアンフードが受け入れられる道が開かれた。僕は(ラーメンスープと比べて出汁があっさりし過ぎていること、そして鰹や干しエビの味が強過ぎるという理由で)ロコ以外の人にサイミンを薦めることは滅多にないのだが、個人的には子供の頃から日常的に食べてきたサイミンが好きだ。実を言うと、サイミンだけでなく、ラーメン、餃子スープ、フォーなどあらゆる麺に目がない。そのおかげで、炭水化物の取り過ぎになっているのはよくないが。
最近、そんな僕の麺好きにさらに拍車をかける小さなチャイニーズ・ヌードルショップを発見した。『Mian(ミアン)』の麺スープは、味噌、醤油、塩、豚骨など僕が今まで知っていたものとは随分違う。中国に定期的に行っているから、中国麺のことはそれなりに知識があると思っていたのだが、この店は僕に新しい麺の世界を見せてくれた。
マイルドのものやスパイシーなフレーバーのヌードル類が並ぶメニューに目を通しながら、僕は片っ端からほぼ全部試したくなってしまった。まずは唐辛子満載の生椒牛肉麵に挑戦しようか。それとも牛肉がたっぷりのせられたピリ辛の滋味牛肉麺にしようか。あるいはそれに似た秘制排骨麺の方がいいかも。いや、目玉焼きとスライストマトがトマト風味のスープに浮かぶ華興煎蛋麺もすごく美味しそうだ。豚骨ラーメンに似た細麺を使った四川酸辣麺、キクラゲとトマトののったマイルドな四川奶湯麺、あるいは豚ひき肉がトッピングされたクリアスープの重慶豌雜麺が無難だろうか。僕は腸が好きな稀な人間のひとりだから、川味肥腸麺も気になった。
スープ麺だけでなく、例えば成都雑醤麺(スープ麺に似ているが、どちらかと言うとソース麺)、四季豆(さやいんげん)を使った重慶豌雑麺、コリコリ食感の砂肝入り秘制雞雑麺、ニンニクのかなり効いたピリ辛四川涼麺なんかの汁なし麺もあって、胃がひとつしかないのがすごく悔しく思えた。おまけに豚肉の鐘水餃、酸辣抄手、ラー油に泳ぐ紅油抄手、奶湯抄手などのワンタンスープまで揃っている。
煮込み肉やマリネポーク、ピクルスなどの前菜もいろいろあって、僕はまるで駄菓子屋に来た子どものような気分になってしまった。結局、何度も通ってメニューを総ざらえすることに。しかしこの店の麺類は、スパイシーなものもマイルドなものも、カーボ過剰摂取・増量という犠牲を払ってでも食べる価値大いにあり。
というわけで僕は、日系三世・四世が一世の人たちと見かけが違う訳を解明したと思う。それは、びっくりするくらい手頃な値段で食べられる食事が山ほどあるせい。そのおかげで、ずっと太ったバーションの僕になってしまった。ミアンの麺をあんなにいっぱい食べてしまったから、もしかしたら今の僕には中国人の血も流れているかもしれない。
◎ マーケティング会社社長。ハワイ随一のグルメ通として知られている食いしん坊。
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(2018年5月1日掲載)
※このページは「ライトハウス・ハワイ 2018年5月1日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。