Q. アメリカ人の夫との間に離婚の話が出ています。実は、日本に住む母親の具合が悪く、子どもの冬休みに会いに行きたいと考えているのですが、離婚が成立するまでハワイから出られないのでしょうか? また、アメリカ人の同僚と離婚の訴状のフォームを見ていたところ、「訴訟を始めたら自動的に一時的接近禁止命令(TRO)が出るのでは?」と言われました。本当ですか ?
A. 時々日本人のクライアントの方から「離婚が成立するまでハワイから出てはいけないと聞いた」と言われます。ご相談者ご自身が日本に行ったりハワイから出たりすることに関しては、離婚の手続きを始めた後も何の制約もありません。しかし、現在ハワイの裁判所で使われている離婚の訴状「Complaint for Divorce」にはオートマティック・リストレイニング・オーダー「Automatic Restraining Order」という自動禁止命令が付随しており、その中で禁止されている事項の一つが、「未成年の子どもを、子どもが現在住んでいる島から出したり、現在通っている学校を変更したりしてはいけない」というものです。ですから、ご相談者がお子さんを連れて日本やオアフ島の外に行くには、相手方の同意が必要になります。この合意は正式な書類を通してなされるべきものです。ご自分だけで行く場合には、この禁止命令は当てはまりません。
お母さまの具合が悪いのに、相手方がお子さんが日本に行くことに同意しない場合は、裁判所で申立てをして、日本に行く許可を得る必要があります。ほとんどのケースで正当な理由があれば、裁判所は子どもを島外に出すこを認めます。
自動禁止命令は接近禁止命令とはまったく異なるもの
また、ご相談者の同僚が言ったように、オートマティック・リストレイニング・オーダー「Automatic Restraining Order」という名称が、TRO(Temporary Restraining Order) と呼ばれる一時的接近禁止命令に似ていることから、勘違いされることがあります。
私のクライアントの方でも、離婚の訴状「Complaint for Divorce」に付随するオートマティック・リストレイニング・オーダー「Automatic Restraining Order」のことを、州による援助の手続きの担当者や軍のリーガルサービスの担当者にTRO だと勘違いされたケースがいくつかありました。しかし、オートマティック・リストレイニング・オーダーは、先月号でお話しした身の安全を守るための接近禁止令とはまったく異なるものです。
離婚の訴状「Complaint for Divorce」に付随するオートマティック・リストレイニング・オーダー「Automatic Restraining Order」は、先ほどお話ししたお子さんに関する禁止命令の他に、離婚訴訟中の財産、負債、保険の被保険者や受取人などに関する禁止命令になります。
例えば、オートマティック・リストレイニング・オーダーに基づいて、離婚の最中は双方の当事者が通常の生活費やビジネスにかかる出費、離婚訴訟の弁護士費用の支払い、当事者間で合意があったもの、裁判所で命令があったものを除いて、財産を売ったり、譲ったり、隠したり、処分したりしてはいけないことになっています。また、通常の生活費やビジネスにかかる出費、離婚訴訟の費用、子どもの教育費に使う目的を除いては、お金を借りたり、クレジットカードを使ったりして負債を増やすことも禁止されています。さらに、生命保険や退職金、年金の受取人も、相手方の書面での同意、もしくは裁判所の許可なしで変更してはいけないことになっています。
原告と被告では自動禁止命令が有効となる時期が違う
離婚の訴状「Complaint for Divorce」に付随するオートマティック・リストレイニング・オーダー「Automatic Restraining Order」は、原告「Plaintiff」に対しては訴状をファイルした時点で有効となります。被告「Defendant」に対しては訴状が法的に送達された時点で有効となります。
そして、基本的に離婚が成立するまで双方この禁止令を守らなければいけないことになっており、内容を正しく理解することが重要になります。
宮本直子
Naoko Miyamoto Attorney at Law
父親の転勤で高校3 年生よりアメリカ在住。1997年カリフォルニア大学バークレー校政治学部卒業。2000年ハワイ大学マノア校法科大学院(ロースクール)修了。2001年ハワイ州裁判所・ハワイ地区米国連邦裁判所弁護士登録。ハワイ州最高裁判所を経て2001年より離婚やその他の家族法を専門に扱うクライントップ& ルリア法律事務所で家族法専門の弁護士として勤務後、2022年9月に『宮本直子法律事務所』を開設。
宮本直子法律事務所
735 Bishop St, Ste. 310, Honolulu (Dillingham Transportation Bldg.)
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E-mail: info@miyamotohawaiilaw.com
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※実際のアドバイスは個々の状況により異なりますので、詳細は弁護士にご相談ください。
※このページは「ライトハウス・ハワイ 2023年9月」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。