ノースで老舗の伝統を守る「マツモトシェイブアイス」

地元日系人のための〝よろず屋〟から、行列のできるシェイブアイス屋へ
苦労を乗り越えられるのはみんながいるから

ノースショア名物と言えば、冬のビッグウェイブとシェイブアイス。1年365日、1日も欠かさず行列ができる老舗名物商店「マツモトシェイブアイス」は、最近テレビでもおなじみになった。現在は2代目のスタンリーさんと妻のりこさんが切り盛りし、3代目の希望も見えてきたと言う。静かだったお店周辺の再開発が迫り、周辺環境が様変わりする今、松本家のオハナ(家族)観をお聞きした。

開発で転機が訪れたノースショアの老舗

家族写真

多くの人でにぎわう、古き良きハワイの面影を残す名物店を守るスタンリーさん、長男ショーンさん、奥様ののりこさん

ノースショアの再開発工事が本格化した2013年10月、ノースショアでシェイブアイス屋として営業を続けているのは、老舗として知られる「マツモトシェイブアイス」1軒だけになってしまった。14年中には、趣のあった周辺の街並は、ショッピングセンターへと変貌を遂げ、新たな観光地として生まれ変わる。そんな渦中で、寂しさを隠せないのが、マツモトシェイブアイスの2代目として、父から受け継いだ店を守る松本スタンリーさんだ。

「今回の再開発で、子供の頃遊んだ場所もなくなる。昔住んでいた、店の後にある家もね。こちらは建て替えになるからまだいいけど、街並がすっかり変わってしまうのはやっぱりさみしいね」

現在の場所にマツモトストアが誕生したのは、1951年2月。初代の松本守さんが知人から店を譲り受け、雑貨店を開業。当時はノースショアに住む日系人を相手にした「よろず屋」だったそうだ。味噌、魚や肉などの食料品からクリスマスツリーまで、必要な物は何でも取り扱い、毎日夜10時までオープンしていたという。

「近所に映画館があったから、遅くまで開けてたみたい。それでもすごく貧乏だった。お父さんは日本にずっと仕送りをしていたし、自分たち3人の学費のために貯金もしてくれていたから。そのおかげか、兄弟仲良くて、それは今でも続いている。何かあるとすぐに飛んで来て、助け合うのが松本家なんです」とスタンリーさん。スタンリーさんには兄と姉がいるが、店を継いだ次男のことは今でも気になるという。

日本から機械を仕入れ、よろず屋からかき氷屋へ

マツモトシェイブアイス 家族写真

まだまだ貧乏で苦労の多かった時代。守さんに抱かれているのはスタンリーさん。前列は、5歳年上の兄グレンさん(左)と3歳
上の姉ジャネスさん(右)

スタンリーさんたちの父である松本守さんは、ハワイ島ホノム生まれ。広島からハワイに移住した移民労働者の次男として生まれたが、サトウキビ畑の重労働に耐え切れなくなり、守さんが2歳の時に日本に帰国。その後広島で生活するも、新たなチャンスを求めて、20歳の時に兄と供に再びハワイに戻ることを決意する。こうして帰米2世(アメリカで出生し、一旦帰国して日本で教育を受け、再びアメリカへ戻った日系人のこと)となった守さんは、ノースに生活基盤を置いて働き、次第にセールスのセンスを身に付けていく。そんな中、知人の紹介で同じくハワイ島出身のヘレン桃代さんとお見合いをして、結婚。2男1女に恵まれる。

「日本の家族に仕送りを続け、ついに両親に家を建ててあげたそうです。日本では、それをお父さんの名義にして、帰ってくるのを待っていたそうですが、結局働きづめで、日本に戻ることはありませんでした」と話すのは、スタンリーさんの奥様ののりこさん。松本家に伝わる苦労話や秘話を大切に受け継いで、次の世代へと語り継いでいる。

マツモトシェイブアイス ポストカード

ポストカードにもなっている、守さんとスタンリーさんの2ショット。レインボーはシェイブアイスを始めた当時からの人気フレーバー

勤勉さと熱心さが認められ、念願のストアを手に入れた守さんと桃代さんだが、日系人相手の雑貨屋商売は、最初は思うようにいかなかったという。そんな折、お客さんのアイデアで、かき氷の販売を思い付く。「お金がなかったから、仲間から借金をして、日本からかき氷の機械を輸入し、ここからかき氷の販売が始まったんだね。上にモーターを付けて、電動にしたんだ。当時は1個5セントで、ラージが10セント。シロップは自家製で10種類。レインボーもあったよ」とスタンリーさん。最初はぼちぼちだったかき氷も、60年代のサーフィンブームでノースに人が訪れるようになると、まずはメインランドからの旅行客に人気となり、シェイブアイスが人気商品となったのだ。

マツモトシェイブアイス

よろず屋として営業していた頃のストア外観

マツモトシェイブアイス

スタンリーさんがお店を継いだ頃のひとコマ

 

ハワイでの偶然の出会いで生まれた新たな絆

幼い頃から店の手伝いをしていた松本兄弟だが、長男と長女が大学へ行っている間、次男のスタンリーさんは、自分が跡を継ぐことを決心する。現在スタンリーさんを陰で支え、今ではすっかりノースショアにとけ込み、松本家の歴史に精通するのりこさんは、大阪市出身。学生時代に、ハワイ好きの友達に連れられ、5人で旅行に来た際、マツモトシェイブアイスに立ち寄り、お店にいたスタンリーさんに写真を撮ってもらったのが最初の出会いだった。

マツモトシェイブアイス オリジナルTシャツ

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「お店に来る人は、私とスタンリーの出会いにとても興味があるみたいで、いつも聞かれるんですよ。私は英文科出身だったので、とにかく英語がしゃべりたかったんですよね。しきりにスタンリーに話しかけたのが勘違いされちゃったみたいで(笑)。その夜、みんなをワイキキのショーに連れていってくれて、いい人だなと思ったのですが、帰国してからは、手紙や電話で連絡を取り合い、2年後に結婚することになったんです」

旅行で大好きになったハワイに住み、幸せな結婚をしたはずののりこさんだったが、いざ移住してみると、思わぬ葛藤が…。

「英語が好きで、ハワイも大好きになったのに、ハワイに住むことになったら、いきなり英語嫌い、ホームシックになっちゃって(笑)。最初は日本に帰りたくて大変でした。スタンリーはまだ日本語が上手ではなかったので、英語で話すのも苦痛で…」

そんなのりこさんを、松本家は親戚ぐるみで温かく迎え、何かと面倒を見てくれた。のんびりとしたノースショアの環境と、ローカルファミリーの優しさがのりこさんの心を癒すのに、そんなに時間がかからなかった。

その後、日本人の観光客が増えたことで、お店で日本語を話す機会も多くなった。子供たちが成長した今は、お店の裏方として、なくてはならない存在だ。

それにしても、なぜこんなに人気なのだろう。

マツモトシェイブアイス シロップ

シロップも手作りのオリジナル。現在は約40種類を用意している

「お父さんから受け継いだ店を、毎日同じようにしてきただけなのに、本当にどうしてなんでしょうね。同じオーナーで、ファミリービジネスとして60年も続いているお店というのが、アメリカでは珍しいみたいで、日本の老舗がそのまま残っているのがいいと言われます。スタンリーはお店に出て、お客様と話すのが大好き。それはスタンリーのお父さんも同じでした。とにかくお店が大好きだったんですよ。引退して、亡くなる前日までお店に出ていたくらいですから。そんな気持ちが伝わるから、また来たいとリピーターになってくださる方も多いのかもしれません」とのりこさん。
スタンリーさんも、
「この雰囲気は、再開発の波が来ても、絶対残したかった。想い出のいっぱいある場所を動くのは絶対イヤだったし、みんな古いお店を見に来てくれるから、それだけは譲れないと交渉しました。今後開発で周囲が変わっても、お店はこのままの状態で存続させます」
と続ける。メディアの力以上に、マツモトシェイブアイスには人を引きつける魅力があふれている。
 

守ってきた伝統も大切に次の世代に残したい

最近、スタンリーさんの長男ショーンさんがお店に出て手伝うようになった。身体が弱く、シャイな性格なので、お店を継ぐことより、自分の好きなことを優先してほしいと考えていた両親にとって、これはうれしい驚きだったようだ。

「ここはおじいさんがとても大切にしていた場所。僕も物心ついた時からお店にいました。初めての離乳食はかき氷だったみたいです(笑)。祖父母が苦労して始めて、父も頑張って働いているお店は、僕にとっても大事なんです。両親は継がなくてもいいと言ってくれましたが、良く考えて、お店で働くことにきめました」
と未来の3代目ショーンさんは目を輝かせる。

長女のレミー愛さんは、日本でタレント活動を始めたので、ご存知の方も多いだろう。子供の頃から手伝いをしていたお店には、人一倍愛着があるのは、愛さんも一緒だ。

マツモトシェイブアイス レミー愛

長女のレミー愛さんは、日本でタレント活動をスタート。現在は日本滞在中だが、彼女に会いたくてお店を訪れる人も多い

「憧れの日本でしたが、最初は人の多い都会で電車に乗るのもひと苦労。やっと慣れてきましたが、いつも思うのは家族のこと。特に落ち込んでいる時は、ハワイでみんなが頑張っている姿を思い出すと、立ち直ることができます」家族思いの愛さんは、ハワイに戻るとお店の手伝いを欠かさない。日本からお店のFacebookをアップするのも愛さんの役目だ。離れていても、マツモトシェイブアイスこそ彼女のオハナなのだ。

家長であるスタンリーさんは、オハナについてこう語る。「幼い頃から貧乏を経験してきたけれど、そのおかげで、家族が助け合い、絆が深まりました。いろいろな人が助けてくれたことも決して忘れません。血のつながった家族、親戚はもちろん、お店で働く人たちもみんなオハナ。みんなの父親のような存在になれたらいいですね。ここでは、社会で役立つように、多くのことを学んでほしいし、次の世代には、続いてきた良い伝統を受け継いでほしい」のりこさんも
「子供たちには助けられることも多く、心の支えになってくれています。小さい頃は、学校で冷やかされたりしたようで、お店が重荷にならないようにと気になっていましたが、やっぱり家族あってのお店ですから。そして、助けてくれる友達、お店で働いてくれている人たちも、もちろん大切なオハナです。家が大変な子も多く、できるだけ楽しく働いて、ここにいたことが良い想い出になってくれるといいなと思います」
と、お店を中心にオハナが広がっていくことがうれしいと話す。

3代目としての第一歩を踏み出したばかりのショーンさんも、ローカルの人や世界中からやって来る観光客に喜ばれるマツモトシェイブアイスは「誇り」だと言う。

守さんが苦労を重ねて繁盛へと導き、スタンリーさんがかき氷から新しいビジネスを発展させてきたノースショアの名物ストアには、日系人の苦労の歴史が寄り添う。

これから開発が進むにつれ、風情が薄れていくことになっても、ここに来れば古き良きノースショアのノスタルジックな風景が残されている。松本さん一家が残して行きたいのは、オハナで結ばれた心と、そんなどこか懐かしい風景。カラフルなシェイブアイスが、ハワイになくてはならないように、ノースショアには、家族思いのオハナがよく似合う。

◎ マツモトシェイブアイス / Matsumoto Shave Ice
66-087 Kamehameha Hwy, Haleiwa
☎ 808-637-4827
▶ 営業時間:9:00am~6:00pm
▶ 定休:元旦、感謝祭、クリスマス
▶ Webサイト:www.matsumotoshaveice.com
▶ Facebook:www.facebook.com/MatsumotoShaveIce

 
(‘Eheu Winter 2014号掲載)

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