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青い海と空とイスラムアートの織りなす美しい邸宅「シャングリラ」

シャングリラからの眺め
If there be a Paradise on Earth, it is here, it is here, it is here.
-もしこの地上に理想郷というものがあるとしたら ここにある ここにある ここにある。

 
『Doris Duke’s Shangri la』(D.Dシャングリラ財団、ホノルル美術館監修)で紹介されたペルシャ詩の一節である。アメリカのタバコ王の一人娘、ドリス・デュークはハワイのブラックポイントに青い海と空とイスラムアートの織りなす美しい邸宅「シャングリラ」と呼ぶ理想郷を作った。
(Text: Etsuko Amada, Photos: Linny Morris)

ハワイとイスラムアートに魅せられたドリス・デュークの理想郷「シャングリラ」

シャングリラの中庭
イスラムの建築は中庭を中心にして建設される。屋根の庇、柱はイスファーファンのアリカプ宮殿を模してシカゴで作られた。右手のタイルは1938年特別注文したイランのモザイクタイル

ドリス・デュークは1912年11月、ニューヨークに生まれた。父はアメリカのタバコ産業とエネルギー産業で巨万の富を築いたジェームス・ブキャナン・デューク。しかしドリスが12歳の時に亡くなり、彼女は莫大な遺産を相続することになる。
 
新聞はドリスを「世界で一番お金持ちの少女」と呼びはやした。世間から注目の的となり続けたドリスは、極端にプライバシーを大切にしながらも独立心が強くかつ冒険心にあふれた聡明な女性へと成長していった。21歳の時にドリス・デューク・ファウンデーションを設立し、慈善家としての活動を始める。その活動は彼女の生涯を通じ、医療、環境保護など多岐にわたって行われた。
 
1935年22歳の2月、ドリスはジェームズ・クロムウェルと結婚し9カ月のハネムーンに出かける。そこでイスラムアートと出会い、それ以後、彼女のイスラムアートへの情熱は、1993年に80歳で亡くなるまで続くのである。そのコレクションは2500点以上。アメリカでの個人のイスラムアート収集では群を抜いた数字だ。そして、ハネムーン最後の目的地はハワイ。そこでたちまちハワイに魅了される。彼女に詮索の目を向けないハワイの人々、そして美しい自然の中で彼女は解放され、大好きなアウトドアライフを心置きなく楽しむことができた。
 
その翌年1936年に青い海と熱帯の木々に囲まれた「ブラックポイント」と呼ばれる場所に私邸の建設を始める。彼女の言葉を借りると“アラビアンナイトの物語”のような内装で。ドリスの友人が、彼女になぜハワイにイスラム風の家を建てたいのかと尋ねた時、「それは偶然二つのものに同時に恋に落ちたようなもの」と答えたそうだ。
 
シャングリラとは小説『失われた地平線』に登場する理想郷の名前。ドリスはこの屋敷をそう名付けた。

シャングリラ邸の内部

シャングリラのダイニングルーム
テントをモチーフにしたシャングリラのダイニングルーム。壁のモザイクタイルはイラン・イスファーファンで1938年特別注文したもの。シャンデリアは19世紀フランスのバカラがインドに輸出向けに作ったものである

シャングリラ邸の玄関の扉を開けると、簡素とも言える外見とは対照的なインテリアに息をのむ。モロッコで特別注文した緻密な幾何学文様が描かれた天井、カリグラフィーの施されたランプ、壁にはめ込まれた17世紀のイズニックのタイル、部屋の両側に置かれたシリアの真珠貝の螺鈿のチェストが優雅な輝きを放ち、壁の上部にはカラーガラスがめぐらされている。
 
階段を降りると、中庭では池の噴水がやさしい水音を奏でている。シャングリラの中庭を囲む壁には13世紀、17世紀のタイル、イランのイスファーファンで特別注文したモザイクタイルがはめ込まれている。その際立った深い青色の美しさ、大きさに圧倒される。
 
各部屋に置かれた精巧な工芸品、13世紀イランの貴重なラスタータイルのミフラブ(礼拝のための設備)、シリアンルームやダマスカスルームを作り上げている18~19世紀のアジャミと呼ばれる建材のアラベスクの文様の壁や天井など、歴史的にも美術的にも重要なものがそろう。
 
ラナイから外の庭に出ると、どこまでも青い海が目前に広がる。ハワイの強い日差しにかたどられたようなシャングリラの白いシンプルな外観が、そこに施されたイスラムのタイルや柱をさらに際立たせてまるで美しい音楽のように調和している。
 
1947年、『Town&Country』に寄せた記事の中でドリスは、「ここはある特定の人の作品ではなく、世界中の建築家や装飾家によって創造されたものを最終的に私(の美意識)によって集成しています」と述べている。ドリス・デュークのシャングリラとは、ハワイとイスラムアートとドリス・デュークが作り上げた一つの美しい作品なのである。

ダイヤモンドヘッドを望む庭
ダイヤモンドヘッドを望むシャングリラの庭。プールの向こうはプレイハウスと呼ばれるゲストハウス

ダマスカスルーム
シャングリラのダマスカスルーム。ダマスカスの18世紀の邸宅の内装(アジャミ)が入れられている

イルハン朝のラスタータイルのミフラブ
イルハン朝のラスタータイルのミフラブ。世界に6つしか残っていないものの一つ

屋上にあたるスペース
シャングリラの屋上にあたるスペースにも豪奢な装飾が施されている

「ドリスはタージマハルや美しい大理石のタイル、花々のデザインに恋に落ちたようだ」と夫のジェームズ・クロムウェルは、1935年にハネムーン先であるインドから手紙を書いた。

寝室
白い大理石のジャリ(スクリーン)で守られた寝室

また、旅行の予定を変更してまで会いに行ったムハマド・ガンジーから、インドの貧しさを救うためには伝統工芸を守り育てることが大事という話を聞いたドリスは、アグラを訪ねた直後、デリーで英国の建築家、フランシス・ブロムフィールドに大理石の寝室とバスルームを特別注文する。
 
タージマハルやレッドフォードが下敷きとなった伝統的なムガール建築様式で作られたシャングリラのムガールスイートは、アグラの工芸職人たちの繊細な技術の結晶である。
 
白い大理石のジャリ(スクリーン)で守られたドリスのプライベートな寝室は、2014年10月から一般見学者への公開が始まった。

寝室のバスルーム
(左)寝室部分と他とは重い扉で区切られている。扉を開けるとムガールスイートへと続くプライベートホールがある/(右)ドリスの寝室のバスルーム。白い大理石にラピスラズリーや碧玉などの貴石が埋め込まれ、花のデザインを描き出している

シリアンルーム
シャングリラのシリアンルーム。タザールという一段高くなった部分。天井のランプは19世紀の北アフリカのもの

ダイニングルームのラナイから望むダイヤモンドヘッド
ダイニングルームのラナイから望むダイヤモンドヘッド

ハワイ・シャングリラ邸・日本語見学ツアーへの参加方法

ツアー参加料金:8歳以上のみ/25ドル(州外)20ドル(州内)
ツアー開催日:毎週水曜日と金曜日/12時にホノルル美術館出発
ツアー時間:90分※ホノルル美術館からの往復1時間で計2時間半
ツアー予約:808-532-3853 またはメールshangrilatickets@honolulumuseum.org(2カ月前から予約可能)
※見学ツアーの定員は12名。
※見学ツアー中、階段・段差があったり、石や芝生などの平坦ではない場所があるので、歩きやすい靴で参加するのが望ましい。

 
(‘Eheu Autumn 2015号掲載)

※このページは「‘Eheu Autumn 2015」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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