カメハメハ家系の末裔・ビショップ婦人

ハワイの道から辿るヒストリー:ビショップ・ストリート

(Text: Masakazu Asanuma / Illust: Shin Takahashi)

ビショップ・パウアヒ像

ロイヤルハワイアンセンターのセンターステージ付近に建つビショップ・パウアヒ像。少女に読み聞かせをしている(Photo: Pakkai Yim)

同胞の子女教育に心を砕いた王女

ハワイ州の政治と経済の中心、ビジネスパーソンがせわしげに行き交うホノルルのダウンタウン。そのビル群の中を港に向かってビショップ通りという名の広い道が貫いています。一方、休暇を楽しむ人々で賑わっているのはワイキキ。そのロイヤルハワイアンセンターの中ほど、ハワイの原風景を思い起こすような緑に囲まれた中に、ある女性の像が置かれています。子どもに本を読み聞かせているのは、カメハメハ大王の曾孫にあたるバニース・パウアヒ。ハワイアンの子女に教育の機会を与えるべく腐心した人でした。

パウアヒは、王家の子弟のためにカメハメハ3世が設立したロイヤルスクールで勉学中に、たまたま学校を訪れたチャールズ・ビショップと知り合い、結婚します。1850年、パウアヒ18歳。学校の応接室での慎ましやかな結婚式でした。ビショップ氏は、ニューヨーク州グレンズフォールズ生まれ。生家は貧しく、父はハドソン川を渡る橋の通行料を徴収して生計を立てており、家もその橋の中ほどの島にあったとか。若い時から商業や簿記に携わっていたビショップは、1858年にビショップ&カンパニーというハワイで最初の銀行を設立。現在はファースト・ハワイアン銀行と名前を変え、ハワイ州の大銀行のひとつに発展していますが、彼が最初に銀行業を始めた建物は、ホノルルのダウンタウン、マーチャント通りに現存しています。

さて結婚当初は、現在のアラケア通りとホテル通りの角に小さな家を建てて質素な暮らしをしていた2人でしたが、パウアヒの父亡き後は、譲り受けた家「ハレアカラー」に移ります。ホノルル港にも近い西欧風の邸宅は社交や慈善事業の場になっていきました。この館は、現在のダウンタウンのフォート、ホテル、ビショップ、キングの4つの通りに囲まれた広い敷地の中にありましたが、今は高層ビルが立ち並び、当時の様子を窺い知ることはできません。

パウアヒは、カメハメハの家系最後の王女として、カメハメハ5世から、その後継者として指名したい旨を告げられますが、それを良しとせず、ハワイ王国の女王の座に就くことはありませんでした。しかし、カメハメハ家系の末裔として、両親や5世、従姉のルース王女らから多くの土地と財産を相続することになり、1884年にガンを患い52歳で他界した時には、ハワイ全島の11%にも及ぶ土地を所有していました。

ビショップ夫妻が活躍したハワイ王国中期の重大な社会問題の一つは、ネイティブハワイアンの急激な人口減少でした。その中でハワイアンの子女の教育おろそかになっていたと思われます。長年、王国の教育委員会の長の役目も果たしていた夫君とともに、パウアヒも、この問題に心を痛めていたのだと思われます。それを示すように、夫人の遺言には「自己の遺産により、ハワイアンの子女のために寄宿舎を伴う男女のための2校を設立し、名はカメハメハ校とするように」と記されており、この遺言と財産を基にカメハメハ・スクールが、現在ビショップ博物館のある周りの広大な敷地に造られました。現在はカパラマの丘に移転し、他島にもキャンパスを広げています。

ハワイとポリネシアの文化を今に伝える博物館であるビショップ博物館も同様、同胞の人口が激減していく中で、その文化を残すべく、パウアヒが亡くなった5年後の1889年(明治22年)に、夫人への追悼の意も込めて夫君により建てられました。2人は王家に伝わる貴重な品を数多く所有していましたし、欧州や米国に旅をしていますので、博物館の有用性にも気付いていたのでしょう。ハワイアンの生徒たちの教育と研修も一つの目的として校内に建てられた博物館でしたので、当初はカメハメハ・ミュージアムと名付ける案も浮上しましたが、カメハメハ4世の寡婦エマ王妃の勧めで、ビショップ夫妻の意思と情熱を尊重し、王女の名を採り「バニース・パウアヒ・ビショップ・ミュージアム」と称されることになりました。また、その名バニースは、ビショップ博物館前の道の名としても残されています。

ちなみにホノルルのダウンタウンにはフォート通りから中華街にかけて、パウアヒ通りという名の小さな道がありますが、これは同名の伯母の名から取られたものだと思われます。

(‘Eheu Summer 2017号掲載)

※このページは「‘Eheu Summer 2017」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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