ハワイのアートを牽引する奇才、ソロモン。

ソロモン_Beautiful-Data

Beautiful Data (Red), 2015 / oil on canvas / 3′ x 4′ / DAWSON Art Project

 

ハワイのアートを牽引する奇才、ソロモン。

(Text: Maiko Izon)

ハワイの「アート」と言えば、美しい自然を描いたマリンブルーの海に豊かな緑、風に揺れるヤシの木、またはにぎやかなワイキキとオアフ島の象徴であるダイヤモンドヘッドを題材にした絵画を想像する人も多いだろう。美しい情景を描くことで人々に安らぎや癒やしを与える「アート」もあれば、メッセージ性の強い「アート」もある。ハワイを拠点に世界を見ているからこそ感じられる内なる思いが、凡人の想像を遥かに超える「形」となって生み出され、観る人のハートに強く訴えかける「アート」もハワイには存在するのをご存知だろうか。

ハワイを代表する現代美術家のひとり、ソロモン・エノス。区画開発が進むカカアコ・エリアで遭遇する大きな壁画やワイキキ内のホテルに飾られた彼の作品の多くは、ハワイという場所が持つ大きなパワーを古代から現代、そして未来に至る壮大なスケールで描いている。分かりやすく古代ハワイアンの神話や伝説、また自然を題材にした作品もあれば、それらのストーリーから派生した奇想天外な情景がキャンバスを飾る作品もある。ハワイ生まれ、ハワイ育ち。深く「人」の「ストーリー」と関わることにこだわりを持ち、表現し続けようとする彼のアートへ込める思いとは。

アロハスピリットで導かれる「ストーリー」

(Text: Maiko Izon / Photos: pow! wow!)

ソロモン・エノス

SOLOMON ENOS
1976年オアフ島マカハ生まれ。アーティストやカルチュラル・プラクティショナーとしてコミュニティーで活動を続ける父を見て育ち、地元ハワイや地球、人のアイデンティティーなどに密接したコンセプトの現代美術アーティストとして才能を開花させる。油絵だけでなくイラストや壁画、彫刻などさまざまな手法を通して表現される作風は、ワード・センターのナ・メア・ハワイやホノルル美術館、コンベンションセンターなどオアフ島各地で観ることができる(Photo: Linny Morris)

人だけでなく、どんな物でもそこに至るまでの”ストーリー”があるんです。家族や友人はもちろん、街行く人や街並みを作る風景、そして日常で手に入る1ドルの物でさえ、それがどこで、誰の手によって作られ、どういう経緯でここまでたどり着いたのか。さらには、その作り手は今どうしているのかなど、人だけでなく私たちの生活すべてに関わる物事に”ストーリー”がある。現代社会は大量生産の物はもちろん、人までもが自分の”ストーリー”を意識せず暮らし、生活の中から失っている人は多い。ハワイの人々の生き方には、そういった世の中の人々に伝えられるべき、人が人らしく生きられるストーリーを取り戻せる鍵があると思っています」。

アートの話を聞くつもりが、思いがけない方向から話はスタートした。「私の父は、オアフ島の西部で社会的な生活に問題を抱える人々を対象に、コミュニティー・オーガナイザーとしてさまざまな活動をしています。日々の生活で路頭に迷っている人々に手をさしのべ、一緒に山でのボランティア活動などを通して、まずはその人自身に”ストーリー”を取り戻してあげられるきっかけ作りに努めています。もともとアーティストとして活動していたこともありますが、彼にとってキャンバスは彼が働くコミュニティーそのものなのです。キャンバスに絵を描くのではなく、人々や土地を通して彼らの人生を描く手伝いをすることによって父のアートは作り上げられてゆく。そうした彼の生き方を通して、今の私がいるのでしょう。私自身も土地やそこに暮らす人の”ストーリー”を知り、絵画という観点からそれを癒やすことで、私たちがあるべき本来の姿に近づけるのだと信じています。幼いころ父に教わったのは、絵を描く技術ではなく、たくさんの”ストーリー”でした。彼から聞く”ストーリー”を、自分の中で思い描くイメージにできるだけ近く表現したいという思いで描き続けているうちに今のような作品になったんです。例えば、大きなハワイアンの女性の切り裂かれたお腹から飛び出すのは内臓ではなく、魚やタロなどの植物。人と土地がいかに密接に共存しているかを表現しています。タロは、古代ハワイアンが主食として食べていたイモで、創世記伝説では”人間はタロから生まれてきた”と語られているほど、ハワイの人にとっては神聖なものです。タロの葉っぱは雨の雫が落ちてくると、自分の根本に雫を落とすのではなく隣のタロの根本に雫を落とすのです。シンプルに簡単にお互いが与え合い潤うシステムがハワイの人々の暮らしです。私は、そういったハワイの人々のストーリーを集めて、世界に”暮らし方”を伝えるために生まれてきた気がします」。

幼少時から宮﨑駿氏の作品や黒澤明氏、また大友克洋氏の代表作『AKIRA』などに影響を受けたというソロモン。大きな声で朗らかに笑いながら、生まれ育ったハワイや世界平和、人、古代ハワイアンの伝説や神話、4000年後の未来など、ものすごいスピードで間髪入れずにさまざまな角度から彼が感じる思いや考えを話し続ける。そんな彼の勢いに圧倒されつつ、耳を傾けながら、溢れんばかりの彼の思いがこうしてさまざまな形状を経てアートとして描かれるさまが見えるような気がした。

近年、ハワイ生まれの若手アーティストたちがハワイを拠点に積極的に活動してきている中、ハワイ生まれハワイ育ちだからこそ発信できるコンセプトが、ソロモンの作品には表現されている。ハワイの近代美術を牽引する画家として世界に発信し続ける一方で、彼の絵はハワイに暮らす人々にとっても、自分のルーツ「ストーリー」をたどるきっかけとして心に働きかけているのかもしれない。

POW! WOW! Hawaii

アラモアナ西側に位置し、大規模な開発計画が進められているカカアコ地区で繰り広げられる壁画アートイベント。2月には、世界中から個性あふれるアーティストが結集して、街中の建物をキャンバスにさまざまなアートを描いた。
(Photos: Jonas Maon)

壁画を描くソロモン

自ら指揮するチームの壁画を描くソロモンの姿

ソロモンの壁画_チーム1ソロモンの壁画_チーム2

 
(’Eheu Spring 2017号掲載)

※このページは「’Eheu Spring 2017」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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